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総力特集  大災害列島「ニッポンの異常事態」 震度7 北海道大地震「不気味な予兆」

2018年9月23日号

▼なぜ「北海道」だったのか

▼「全域停電」が及ぼす大打撃  

激震が北海道を襲った。最大震度7は2年前の熊本地震以来だ。震源地に近い厚真町では大規模な土砂崩れにより家屋がのみ込まれ、人命が奪われた。加えて土壌の液状化、停電、鉄道の運休、断水、余震。北海道全域に被害が拡大したのはなぜか。そしてその影響は―。

 武蔵野学院大の島村英紀特任教授は、すさまじい揺れを感じて覚醒した。9月6日午前3時過ぎ、かつて北海道大に勤務した時に買った札幌市内のマンションで就寝中だった。
「地震学者ですから瞬間的にP波とS波の時間差を頭で測りました。震源は意外と近い。不思議だな、と」
 P波はカタカタと揺れる初期微動、S波はユサユサと揺れる主要動のことだ。両者の時間差をもとに簡易計算すると、震源までの距離が分かるという。その結果は大地震が多発する千島海溝や日本海溝までの距離よりずっと近かった。つまり、揺れは大きいが海溝型地震ではない。だから「不思議だ」と感じたのだ。
 島村氏の推察は正しかった。気象庁によれば、札幌市から約70キロ南東の厚真(あつま)町付近を震源とするマグニチュード6・7の内陸直下型地震。同町で震度7を観測したほか、安平(あびら)町とむかわ町は6強、新千歳空港や札幌市東区などは6弱と震動は大きかった。

◇7~9月の成長率はマイナスに

 厚真町では山の斜面が広範囲に崩れて民家がのみ込まれ、多数の死者や安否不明者が出た。立命館大の高橋学教授(災害リスクマネージメント)によれば、現場付近は火山灰や軽石など火山噴出物が厚く積もる丘陵や河岸段丘という地形が広がっている。

「台風21号による雨水が大量に染み込んでもろくなっていたところに、地震が起きて一気に崩れた。この地方の住民は、冬に吹く北西からの強風を避けるため、崖のすぐ下に家を建てていました。地形、台風、家の立地が重なって大きな被害を及ぼしたと考えられます」
 同じ頃、同町の太平洋岸に建つ北海道電力の苫東(とまとう)厚真火力発電所。3基ある発電機の配管が破損し、火災が発生した。すぐに運転を停止し、北海道全域の約295万戸に停電が広がった。大手電力会社の供給エリアの全域で停電したのは、戦後初めて。「全系崩壊」と呼ばれる現象だ。元東京電力執行役で、電気料金比較サイトを運営する「エネチェンジ」の巻口守男顧問に発生メカニズムを聞いた。
「電力を作る人と使う人が"綱引き"をしていると考えると分かりやすい。この綱引きでは、双方の引き手は常に同数で、使う人が一人増えれば作る人も同じだけ増やすルールです。今回は供給量のおよそ50%を担っていた苫東厚真が数十秒とか数分という短時間で止まった。つまり、片方の引き手の半数がいきなり手を離したら、残りの引き手が全員尻餅をついたようなもの。双方のバランスが大きく崩れると、電力供給が止まる仕組みなのです」
 火力発電所を再起動するには、石炭をボイラーに供給したり、空気を送ったりする電力が必要だ。自家発電装置がある発電所を除き、自力では起動できないという。そこで、手動で水を流す操作ができる水力発電所を起動し、その電力を使って順番に火力発電所を動かすという手順を取る。
「ベースロード電源(安定供給する発電所)を1カ所に頼るのは危ない。普段から集中させない。それは常識的にそうです。今回のようなことがないようにマニュアルがあって、電力各社はやっている。今回の反省材料だと思います」(巻口氏)
 札幌市の約70キロ西にある泊原発(泊村)は2012年以来、運転を停止中だ。しかし、核燃料を冷却するためには電力が要る。停電後、すぐに非常用ディーゼル発電機を使っており、冷却に支障はないという。
 発電の集中を防ぐため、泊原発の再稼働を―。そんな見方が浮上しそうだが、札幌市出身の経済評論家、山崎元氏は否定的だ。同氏は15年ほど前から、原発から出る放射性廃棄物の最終処分を研究する公益社団法人の「最終処分積立金運用委員会」に加わる。
「原発が安全だという前提に立てば、そんなストーリーになるでしょうが、再稼働は道民世論を考えると無理じゃないか。今回の停電は、北海道電力のリスク管理の問題なのか、発電所の集中なのかは分かりませんが、経営力がB級だったとは言えるでしょう」
 83歳になる山崎氏の母親は札幌市のマンションで一人暮らし。地震の翌日になっても「停電のまま」と嘆いているという。地震の直後から多くの病院で診察できなくなり、新幹線、在来線、地下鉄や新千歳空港発着の航空便が全て運休、水道供給が滞り、企業や店は営業できなくなった。徐々に復旧し始めたが、世耕弘成経済産業相は「完全復旧までは少なくとも1週間程度」と述べ、計画停電をせざるを得ない可能性を指摘している。第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストは日本経済全体に与える影響は甚大だという。
「間違いなく言えるのは、7~9月期の成長率がマイナスになること。大阪北部地震、西日本豪雨、台風21号、そして今回の地震。ただでさえ、鉱工業生産の予測指数をもとに計算するとマイナス成長になりそうなところに、歴史的な天変地異が追い打ちをかけたので、これはもう間違いない」

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