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「オウム真理教の狂気」は終わっていない!/上 「麻原彰晃」ら元死刑囚の「神格化」は始まるのか

2018年7月22日号

 7月6日。平成の事件史に刻まれる節目の日となるだろう。一連のオウム真理教事件の確定死刑囚のうち、教祖と元教団幹部らの計7人の刑が執行された。だが、事件が終焉を迎えたわけではない。現在も信者を増やし続ける教団は今後、どこへ行くのか。

 ノートを開くと、黒くて細い虫が這(は)ったような線と点が躍っている。傍聴席に座って、証言台から聞こえてくる言葉を書き取った、私だけに判読可能な文字だ。裁かれる者の"声"を、私の耳を通して聞き、私の身体の中を通って、手元のノートに記録していく。
 オウム事件に限らず、これまでに数多くの刑事裁判を傍聴取材してきた。そこで死刑判決を受けた被告人の刑が執行されたとの報に触れると、あのときの"声"や仕草が脳裏をかすめて、不意にある種の感慨がこみ上げてくる。私のノートに刻まれた文字は、彼らが生きていた証(あかし)でもある。
 だが、麻原彰晃こと松本智津夫の死刑の執行に臨んでは、驚きはしたものの、いつものような感情は湧いて来ることはなかった。
 一つには、教祖と同時に6人の弟子たちの刑も執行されたことがある。一日に7人の死刑が執行されることは、戦後の司法手続きにおいて、前例がない。それだけに、私にとってはそちらの"規模"の大きさに圧倒されて、一人一人を回顧する余裕もないというのが正直なところだった。
 それと、もう一つの理由。刑が執行されることによって、その事件は終焉(しゅうえん)を迎える。だが、この事件はそれだけでは終わらない事情がある。
 奇(く)しくも、いまから29年前、平成の最初の年の10月から、この『サンデー毎日』の誌面で「オウム真理教の狂気」と題する連載を開始したことによって、教団の実態が白日の下に曝(さら)され、追及がはじまった。

 一連のオウム裁判は、192人が起訴され、190人が有罪となり、そのうち教祖を含めた13人の死刑が確定した。戦後最大の刑事裁判と呼ばれるだけに、もはやこの教団組織の「狂気」を表している。
「麻原に死刑が執行されたと聞いたときは、ようやくここまで来たか、と思いました。ひとつのケジメですから」
 オウム真理教信者の脱会活動に取り組んできた弁護士の滝本太郎が言った。
「ただ、そのあと、6人も同時に執行されたと聞いて、呆然(ぼうぜん)とした」
 滝本は、死刑は麻原だけでいい、とかねてより主張してきた。
「いうなれば、麻原が頭であって、あとの弟子たちは手足に過ぎなかった。立場が違う。殺された坂本(堤弁護士=滝本弁護士と同期)が救いたかったのも、そうして麻原に騙(だま)されていく信者たちであって、12人も道ずれにできた、と麻原を喜ばせたくありません。まして、教祖に従って死んだ人たちは"殉教者"となって、残った信者たちの信仰を深めてしまう」
 かつて私に語っていたことが、ここへ来て現実のものとなりつつある。

 ◇「7人」は主体的に事件に関与

 一連のオウム裁判は、今年1月に終結し、3月に死刑囚の分散拘置(注1)がはじまると、私はその移送先と事件の時系列からして、教祖と坂本弁護士一家殺害事件(1989年)の実行犯からまず同時に刑が執行されるのではないか、と予測していた。同事件の実行犯だけが重複することなく、まったく別の拘置所に分散されていたからだ(注2)。

 ところが、今回の執行はその予測が外れたものだった(23ページ表)。どうしてこの時期に、この6人に刑が執行されたのか。
 その顔ぶれを見ると、一つの共通点を見いだすことができる。いずれも主体的、能動的に事件に関与していたことだ。
 例えば、土谷正実はその専門知識を生かして研究に没頭し、サリンを生成することに成功した。遠藤誠一と中川智正は、その土谷を率先してサポートし、事件に使われる化学兵器を生み出す"生成チーム"として貢献している。
 地下鉄サリン事件の総合調整役とも現場指揮者とも呼ばれた井上嘉浩は、実行役に駄目出しをするほど積極的に関与した。
 早川紀代秀は坂本事件で麻原に電話で現場の状況を伝え、現場にその指示を戻す唯一の役回りだったし、「麻原のドーベルマン」(注3)と称された新實智光は、教祖が起訴された全ての殺人事件に関与している。
 対して今回の執行が見送られた死刑囚6人のうち地下鉄サリン事件の実行犯4人は、指示に盲目的に従っただけであり、坂本事件、松本サリン事件に関与したとはいえ、端本悟はまったく謀議に参加せず、従属的に現場に送り込まれている。岡崎一明に至っては、減刑理由とはならなかったものの、坂本事件の「自首」が判決で認められているし、事件後は教団を脱走して距離を置いてきた事情もある。
 では、今後の刑の執行手続きはどうなるのか。
「教祖だけを執行して、あとの弟子たちは改元の恩赦で死刑を免れるのではないか」
 分散拘置がはじまった当初は、新聞記者の間でそんな臆測も飛んでいた。現段階(7月6日)で「教祖だけ」とはいかなかったが、事情の違う残り6人は、その可能性もあるのではないか。
 これは本誌でも繰り返し指摘してきたことだが、地下鉄サリン事件の実行役の横山真人は、担当した丸ノ内線で一人も死者を出していない。
 だが、この事件は同時多発テロであることから、共謀共同正犯で死刑になる。
 一方で、千代田線にサリンを撒(ま)いた林郁夫は霞ケ関駅職員2人を殺害しているにもかかわらず、真摯(しんし)な反省の態度と悔悛(かいしゅん)の情、それにこの事件の「自首」が認められ、無期懲役となった。
 同じ事件で1人も殺していないのに死刑。2人殺したのに無期懲役。つまり、林の殺した2人の責任を背負って横山は死刑になる。
 果たして、時期は不明ながら、このまま刑の執行が妥当なのか、疑問も残る。
 他方で、前出の滝本が指摘するように、教祖といっしょに執行された6人は、現存する教団の後継団体から、「殉教者」として崇(あが)め立てることに利用される可能性がある。それと同時に、麻原はキリストのように神格化される可能性が否定できないのだ。
 そこで問題になるのは、麻原の骨の行方だ。
「正確には、誰がその遺体を引き取るのか、それが問題です」(滝本)

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