政治・社会詳細

イチオシ
loading...

金子勝「アベノミクスは日本を破滅させる毒薬だ」 サンデー時評・番外編

2016年5月 1日号

倉重篤郎が肉薄 シリーズ・アベノミクスに吠える/1 金子勝・慶應大学教授に聞く


 ◇長期衰退「日本病」の正体 アベノミクスは日本を破滅させる毒薬だ! -脱原発を突破口に、IT、農業、福祉で復活せよ

 庶民にとっては実のある成果がまったく見えないアベノミクス。生命科学者の児玉龍彦氏との共著『日本病』を刊行した慶應大学教授・金子勝氏は、アベノミクスは日本を「取り戻す」どころか「売り渡す」政策で、これにより日本経済は長期衰退という病に迷い込んだと喝破する。「サンデー時評」でおなじみの倉重篤郎氏が金子氏に迫った。

 このまま行くととんでもないことになるのではないか。アベノミクスの現状を鑑み、将来を展望するにそんな思いが湧き上がる。
 一犬虚に吠(ほ)ゆれば万犬実(じつ)を伝う、という。発端が虚であっても真実のように広まることのたとえである。現政権党の看板政策「アベノミクス」もまた「虚」が権力の番犬たちによって「真実」化された側面があるのではないか。
 2年で2%の物価目標が達成されず、トリクルダウンも起こらず、実質2%(名目成長率3%)には程遠い。新たな目標(2020年の国内総生産600兆円、出生率1・8、介護離職ゼロ)にしても掛け声倒れの公算が大きい。
 そろそろ「虚」に向き合い、その「虚」がどういう「真実」をもたらすかを予測すべき時である。
 題して「アベノミクスに吠える」。眼力のある人物に、権力迎合犬ではなく、事の本質に肉薄する野犬として大いに吠えてもらう。
 まずは、金子勝慶大教授の門戸を叩(たた)いた。テレビでおなじみの経済学者だ。理屈っぽそうではあるが、福島原発事故を機に脱原発による産業・エネルギー構造の大変革を提唱する旬の人でもある。
 最近『日本病 長期衰退のダイナミクス』(岩波新書)を生命科学者の児玉龍彦氏との共著で出版した。その内容は深い。市場も生命も多重な調節制御の仕組みから成り立ち、それに生かされている、というユニークな観点からアベノミクスを分析、異次元緩和はこの制御システムそのものを破壊しつつあると警告している。お会いしてさらに教えを乞うた。

 ◇アベノミクス最大の目算違いとは?
 私のかねての疑問に答えていただいた。企業がため込んだ内部留保がなぜ賃金や投資に使われないか、という謎の解明である。
 アベノミクスとは、異次元金融緩和策により円安と株高状況を作り出し、輸出製造業(大半が経団連傘下の企業)を儲(もう)けさせ、その企業収益を賃金や投資に振り向け、それが新たな消費・投資需要を呼び、それがまた再生産と新たな儲けを生み出す、という好循環を前提にした経済政策である。
 それは半分までは循環した、といえる。企業は史上空前の収益をあげたからだ。おかげで企業の内部留保も300兆円を超えた。問題はそこからである。それが企業の懐にとどまり、賃金や投資に回らなかったのである。政権が賃上げと設備投資を働きかけても、企業は一向に応じる気配はない。これがアベノミクスの最大の目算違いである。なぜそうなったのか。<br>
 金子氏は、その背景に日本の優良大手企業の外資系化がある、と教えてくれた。こういうことだ。<br>
 1990年代の不良債権処理の失敗や国際会計基準の導入で銀行や企業は相互持ち合い株を解消し、その結果、外国人株主の保有比率が上昇していった。その傾向はアベノミクスにより助長され、日本の保有する株式の32%は外資系となり、多くの上場企業が外国人保有率40%以上の「外資系企業」となった。日銀の金融緩和による円安と、日銀と年金基金を使った官製相場による株価維持が外資の損失を補てんしてくれるからである。
 金子氏が吠える。
「アベノミクスは『日本を取り戻す』のではなく『日本を売り渡す』政策だ」
「外資系企業」の特徴とは何か。まずは、目先の利益率が追及され賃上げや投資が抑制される。それだけではない。金子氏また吠える。
「商品の売買だけではない。グローバル競争の中で、企業自らの売買が行われる。会社を買うか買われるか。賃上げや投資をするより現金保有や株を買うことで内部留保を増やすことになる。自社株をつり上げれば上げるほど相手をのみ込めるし、自分が買われる心配もなくなる。株があれば本業がだめでも配当金で収益を出せる。資本主義が変わってしまった」
 ナルホド、この資本主義自体の変質という視点は貴重である。
 ただ、内部留保が投資に向かわないもっと単純な理由もあるのではないか。日本経済の成熟化により消費需要が構造的に増えないのだ。人口が減り、高齢化する社会で積極的な投資意欲が生まれるわけがない。アベノミクスは、デフレの真因である人口問題に無関心、無能力過ぎた。今さら出生率1・8とうたっても遅すぎる。
 私には、人口減からデフレを説明する藻谷浩介著『デフレの正体』(角川書店)が捨てがたい。
 ただ、金子氏はこの藻谷分析は表層的だという。日本経済は体の奥深くで深刻に病んでいる、というのだ。氏は、それを長期停滞という「日本病」だと診断を下す。
 兆候は以下の数字に現れる。国内総生産(GDP)の停滞とドル建てGDPの急速な減少(日本経済の地位低下)、国際競争力低下、雇用の非正規化、格差と貧困の拡大、少子高齢化、地域衰退......。
 そもそもの発端は、90年代のバブル崩壊に対する不良債権処理の失敗にある。不良債権に対する厳格な査定を行わず、不正会計と経営責任を問わないまま、小出しの財政金融政策を「薬」として投与し続けていくうちに、より強い薬を求めるようになり、体力を衰弱させるプロセスに入りつつある。
 それはあたかも抗生物質を投与すると耐性が生まれ、さらに強い抗生物質が必要となり、やがて多剤耐性菌が爆発的に増え、死に至る経過に似ている、という。
 アベノミクスの異次元金融緩和策では、特に強力な薬を処方した。半端な薬では効かなくなっていた。一見効果が上がったように見える。だが、二重の意味でそれは死に至る病に近づかせた。

政治・社会

くらし・健康

国際

スポーツ・芸能

対談

  • 艶もたけなわ

    毎熊克哉 俳優

    2019年5月19日号

    阿木燿子の艶もたけなわ/251   映画「ケンとカズ」で新人賞を相次いで受賞。裏社会...

コラム