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70歳定年も! 後悔しないアラ古希を迎える術

2019年6月16日号

 中国・唐の詩人、杜甫は「人生七十古来稀(まれ)なり」と詠んだ。今や人生100年時代を迎え、日本の宰相は「70歳定年」をうたう。少子高齢化で年金は先細り、老後は悠々自適......の夢はかないそうもない。一度きりの人生。後悔しない"アラ古希"を迎える術はあるのか。

 5月下旬、暖かな日ざしが差し込む中、神奈川県藤沢市の高齢者グループホーム「クロスハート本鵠沼・藤沢」では、入居者が午後3時のおやつタイムを過ごしていた。車いすに乗った90代女性に笑顔で寄り添うのは、職員の岸武さんだ。御年75歳。認知症がある女性の話に耳を傾けていた。
「認知症の方への寄り添いや心のケアは同年代のほうがうまくいくケースが多い。入浴介助など力のいる仕事は若い人が、シニアの方はそれぞれの体力に見合った仕事を担当しています」
 ホームを運営する社会福祉法人伸こう福祉会の有山志津子理事がそう話す。神奈川県を中心に高齢者施設や保育所を運営しており、定年は70歳、最長80歳まで働ける。約1145人いる職員の4分の1は60歳以上で、70代以上は約80人。慢性的な人手不足に悩む介護現場にあって、シニア世代の活躍は欠かせない。
 岸さんは車関連の会社に約35年勤め、55歳で早期退職した。95歳で亡くなった母は特別養護老人ホームで最期を迎えたが、その時の経験が忘れられない。
「険しい表情だった母がホームに入ってから穏やかになりました。介護の仕方によって、ステキな看取(みと)りができることを知りました。100人いれば100通りの接し方があります。介護は、知れば知るほど奥が深い仕事です」
 57歳で介護業界に転職した岸さんは、母が受けた"介護の恩返し"に第二の人生をささげているのだ。
 左上の表をご覧いただきたい。65歳まで生きた人が、その後どれだけ長生きするかの確率である。2015年時点で65歳を迎えた1950年生まれは、男性の3人に1人、女性の5人に3人が90歳まで生きる見込みだ。90年生まれは男性の5人に2人、女性の3人に2人が90歳まで長生きする時代が来る。
「老後の資金は100歳まで考える時代。健康で働けるうちは働き、退職した後は生活費を現役時代の7割ぐらいにスリム化したほうがいいでしょう」
 そう解説するのは、社会保険労務士でファイナンシャルプランナーの井戸美枝さん。『100歳までお金に苦労しない 定年夫婦になる!』などの著書があり、年金問題にも詳しい。
「特に女性は長生きリスクに備えておく必要があります。結婚していれば、夫がいる間はなるべく夫の収入だけで生活し、妻の収入や年金は使わず貯(た)めておくなど、夫亡き後の妻一人の生活費を考えておかなければなりません。年金支給開始を遅らせることをお勧めします」(井戸さん)

 ◇月8万円仕事で"老後赤字"を解消

 公的年金制度は原則65歳を支給開始年齢としているが、実際に受け取りを始める時期は60~70歳の間で選ぶことができる。繰り下げ受給を選択すると年金額が1カ月につき0・7%ずつ増額され、70歳まで遅らせると42%増になる。

「国民年金に40年間加入した人の通常の支給額は年額約78万円ですが、70歳からの受け取りにすれば33万円以上増えて、約111万円になります」(同)
 ただ、繰り下げ受給の利用者は、制度の周知不足もあって全体の1%程度にとどまっている。そんな中、『朝日新聞』は5月23日付朝刊1面に「人生100年 蓄えは万全?」という見出しで、金融庁がまとめた国民の老後資産に関する報告書案の中身を報じた。
 報告書案によると、年金だけが収入の無職高齢夫婦(夫65歳以上、妻60歳以上)だと、家計収支は平均で月約5万円の赤字。蓄えを取り崩しながら、20~30年生きるとすれば、現状でも1300万~2000万円が必要になる。差し迫るのは、"老後赤字"なのか。井戸さんに聞こう。
「月8万円稼ぐことができれば、この赤字は解消できます。月8万円といえば夫4万円、妻4万円です。50代以降こそダブルインカムを目指したほうが得策です」
 年間96万円稼ぐことで、貯金に手をつけずにすむ。長生きリスクに備える工夫としては、前述した年金の繰り下げ受給もある。
「働いた収入だけで、70歳まで暮らすのが無理そうという方にお勧めの方法があります。妻の年金だけ繰り下げるのです。定年夫婦ならではの裏ワザです」(井戸さん)
 総務省によると2012年に596万人だった65歳以上の就業者数は、17年に807万人に増えた(左の表)。15歳以上の就業者総数に占める高齢者の割合は12・4%と過去最高で、団塊世代が70歳を迎えたこともあり、70歳以上で増加している。もはや70歳はその生存どころか、働くことすら「稀(まれ)」な時代ではないと言えるだろう。
 シニア向けの再就職を支援する窓口も多様化している。ハローワークやシルバー人材支援センターに加え、民間の就職情報サービスも増えているのだ。総合情報サービス企業のマイナビは、17年10月から40~60代向けの求人情報サイト「マイナビミドルシニア」の運営を始めた。60代からの仕事を見ると、マンション管理、ドライバー、外食の接客、事務、給食調理、家事代行・清掃、警備などの職種が紹介されている。
「多くの方が『長く働ける仕事に就きたい』と希望されますが、職場の雰囲気や仕事内容など自分に合っているかは働いてみないとわかりません。最初から合う合わないを判断するのではなく、積極的に応募することで、良い転職先に巡りあえる可能性が高まります」
 マイナビミドルシニアの山田周右(しゅうすけ)編集長はそう言う。定年前の50代のうちから求人サイトでどんな仕事があるのか見て情報収集しておくと、実際に職を探すときの参考にもなるだろう。サイトを見ると、時給1000円以上のものから月20万円以上稼げる求人もある。シニア転職のポイントはどこにあるのか。
「面接では、経歴のみを伝えるのではなく、具体的なスキル・経験を伝えることを意識しましょう。そのためにも、事前に自身の"棚卸し"を行い、強みを整理しておくことが大事です」(山田編集長)

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