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健康格差の時代を乗り切る! 良い長寿、悪い長寿... 勝ち組はここが違う

2019年4月28日号

 日本が「格差社会」と呼ばれるようになって久しい。主に経済的な面で、個人差、世帯差が生じ、広がってしまったからだ。そして今、新たな格差が注目されている。それが「健康格差」である。一体、どういう意味なのか。この格差の解消はできるのだろうか。

「ただ長生きするのではなく、健康に長く生きたい人が多いでしょう。そのためには個人の意識や生活を改善していく必要があるのはもちろん、国や自治体を巻き込んだ社会全体の取り組みが求められます」
 そう語るのは、近藤克則・千葉大予防医学センター教授。日本における「健康格差研究」の第一人者である。
 戦後長らく「1億総中流」と称されてきた日本だが、「格差社会」という言葉が使われるようになったのはバブル崩壊後の1990年代。富む者とそうでない者の差が著しくなったためだ。
 規制緩和が進んだ2000年代にはそれが決定的になり、04年には山田昌弘・東京学芸大教授(現中央大教授)が書いた『希望格差社会 「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』(筑摩書房)が話題となった。そして今、新たな格差が注目を集めている。近藤教授が研究する健康格差である。
「地域や集団によって(健康長寿への)取り組みや環境はかなり違う。このため、健康状態にも随分と地域差、集団間に差が生まれてしまっているのです」(近藤教授、以下同)
 健康で長生きするためには、運動や食事など生活習慣に気を配らなくてはならない。それは誰でも知っていることだろう。だが、実際の健康維持や健康増進への取り組みはというと、自治体や個人によって相当違い、環境も異なる。このため、格差が生じている。また、その地域特有の気候や社会環境なども格差の理由となっている。
 近藤教授は、『長生きできる町』(角川新書)の著書もあり、健康長寿と関連する要因などを調べ続けている。行き過ぎた健康格差は是正すべきだと考えており、まずは格差の実態を把握し、その上でどうすれば格差が解消できるかを研究している。
 地域ごとの健康格差は、都道府県別に集計される「健康寿命」ランキングにも表れる(左ページの表)。
 平均寿命については説明するまでもないだろうが、健康寿命とは、寝たきりなどにならず、健康な状態で生存する期間のこと。介護や医療に継続的に頼らず、自立した生活が送れる年数である。2000年にWHO(世界保健機関)が提唱した概念で、注目度が年々高まっている。
 健康寿命の男性トップは山梨県の73・21歳で、最下位は秋田県の71・21歳。女性はトップが愛知県の76・32歳で、最下位は広島県の73・62歳だ。
「健康寿命は、気候が穏やかな地域のほうが高いという傾向があります。調査結果が発表されるようになったここ約20年、東北北部の雪国はずっとランキングが下位なのです。とくに秋田県は今回(2016年)、男性が最下位(46位、大地震で調査がなかった熊本県は除く)だったため、県は健康長寿化を課題に掲げています」
 同県は健康寿命が低いことについて、高齢化や人口減少が著しい、がんや脳血管疾患などの生活習慣病による死亡率が高いから、などと自己分析している。
 そして現在は、「健康寿命日本一への挑戦」とのスローガンを掲げ、県民の健康増進に躍起になっている。具体的には、「適度な運動」「バランスの良い食生活」「生きがいづくり」などを呼び掛けている。
 雪国の場合、平均寿命の短さが古くから指摘されてきた。とくに脳卒中になりやすいといい、その理由の一つとして挙げられるのが、雪国で好まれる塩辛い料理。塩分を多く取ると、血圧が高くなりやすいのは知られている通り。高血圧は脳卒中の大きなリスクファクター(危険因子)だ。
 また、都市部と違い、公共輸送機関が発達していないことも脳卒中のリスクファクターである。どうしても移動を車に依存してしまい、歩く機会が少なくなり、運動不足に陥りやすいからだ。運動不足も高血圧を招く。また、冬は雪に覆われるため、さらに体を動かしにくくなってしまう。
 運動不足は肥満や糖尿病などほかの生活習慣病の発症リスクも高める。雪国の平均寿命、健康寿命を下げている大きなマイナス要因である。
 さて、健康寿命の延伸を願うのは、何も雪国に住む人たちだけでなく、誰でも同じだろう。また、健康寿命が延びると、社会全体にもプラスなのだ。
 その背景には、介護現場の厳しい現実がある。
「このままだと、25年には、介護職員は約38万人も不足すると厚生労働省は推計しています」
 健康格差が広がり、全体の健康寿命が延びないと、個人も社会も困るのである。25年には団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者になっている。厚労省のデータによると、15年の後期高齢者は約1646万人だったが、25年には約2179万人に。現状のまま要介護者が増えると、介護職員が足りなくなるのだ。
 では、どうすれば健康で長生きできるのか。
「今、注目されているのが住宅や社会環境。日本の家は寒過ぎます」
 寒い家が、どうして健康長寿化を阻むのかというと、まずヒートショックが起きやすいため。ヒートショックとは、温度の急激な変化によって血圧が上下に大きく変動し、体がダメージを受けることである。
「冬の入浴時、急激な温度差で血圧が乱高下することによって、心筋梗塞(こうそく)が起こる危険性はよく知られていますが、これがヒートショックです」
 心筋梗塞だけではない。脳梗塞なども引き起こす。東京都健康長寿医療センター研究所の推計によると、11年の1年間で約1万7000人がヒートショックに関連して入浴中に急死したという。その多くは高齢者だ。同年の交通事故による死者数は4691人なので、3倍以上だ。
 また、ヒートショックで倒れてしまったら、たとえ一命を取り留められようが、後遺症が残ってしまう恐れがある。それでは健康長寿とならない。
 慶應義塾大の伊香賀俊治教授らによって、住宅の断熱性能が高血圧と関係することも報告されている。ヒートショックのみならず、血圧そのものに家の寒暖が影響するそうだ。追跡調査によって、断熱性能を改善して室温が高くなった家屋に住むと、血圧が下がるという結果が得られたという。
 暖かい家に住むと、ヒートショックも高血圧も免れられる可能性が高まるというわけだ。地域にかかわらず、住まいが「寒い」と感じたら、早めに改善すべきだろう。
 何も大金を投じて増改築する必要はない。風呂場やトイレなど、温度が低くなりがちなところに、ヒーターを置くなどして、暖かくなるよう工夫をすればいい。
 ちなみに近藤教授によると、北海道は東北より平均気温が低いが、東北より住宅リスクは低いという。寒さ対策が徹底し、セントラルヒーティング(全館集中暖房)が普及しているためだそうだ。

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