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おひとりさまの「在宅大往生」 穏やかな死を台無しにしない! 

2019年2月17日号

 ◇救急車を呼ぶと「警察」が出てくる 宅配弁当が死後1カ月放置の悲哀

 一人暮らしの人が、我が家で最期を迎えるための在宅医療・介護の最前線を紹介してきた本誌「おひとりさまの在宅大往生」シリーズ。ただし、現実は美談ばかりではない。シリーズ第4弾では、穏やかな「死」が台無しになる実態について、在宅医が警鐘を鳴らす。

 東京五輪・パラリンピックから5年後の2025年、人口が最も多い団塊世代が後期高齢者となる75歳を超え、超高齢多死社会が到来する。40年には、男性高齢者の5人に1人、女性高齢者の4人に1人が一人暮らしになる。
 おひとりさまがどこで最期を迎えるかは、ニッポンが抱える大きな課題だ。そうした社会状況の中、ある警察関係者がこんな実態を明かす。
「かかりつけ医師が2週間に1回、患者宅に訪問診療していたにもかかわらず、玄関先に処方箋だけ置いて帰っていたケースがありました。2週間後に行くと前回の処方箋が残っている。すでに病死していました。きちんと診察していれば、早く発見できたはずです」
 病院死が7割を占める中、国は病院で亡くなる患者を減らし、自宅などで最期を迎える人が多くなるように旗を振る。訪問診療の報酬加算が増えているのもそのためだ。自宅で最期を迎えたいと願う人のために汗を流す医療・介護関係者がいる一方で、"金もうけ"に走る医師もいるというのか。
 国は団塊世代が75歳以上となる25年をめどに、高齢者が住み慣れた地域で自立した生活を続けるための支援体制「地域包括ケアシステム」を構築する目標を掲げているが、在宅医療・介護の環境整備や地域の支え合いが十分浸透しているとはいえない例もある。
〈事例1〉80代の一人暮らし男性。訪問した看護師はその日、応答がなかったため男性が外出していると思い、そのまま帰った。ところが、1週間ほど連絡がとれないことを不審に思ったケアマネジャーが警察に連絡すると、死亡した状態で見つかった。
「同じような見落とし事例は訪問看護師だけでなく、介護ヘルパーでもあります。応答がなかった時点で安否を真っ先に確認すべきです」(警察関係者)
〈事例2〉70代の一人暮らし女性。昼の宅配弁当が1カ月間も受け取られていなかったが、配達する業者は安否確認のチラシをポストに入れただけで、毎日弁当を届けては、前日から手つかずの弁当を持ち帰り続けた。異臭騒ぎになり、警察が駆けつけたときには、死後推定1カ月が経(た)っていたという。
「弁当が開けられていない時点で対応すべきですが、時間給のアルバイトは配達以外の仕事を増やしたくないのが心情。同様なケースは新聞配達、飲料配達業者でもみられる。一人暮らしの場合、配達業者も高齢者を見守る地域の一員と認識すべきです」(同)
〈事例3〉50代の一人暮らし男性。生活保護受給の手続きが滞っているため、自治体職員が自宅を複数回訪問したが、応答がなかった。1カ月後、警察に相談して自宅に入ると、すでに死後1カ月経っていたという。

 ◇異状死扱いされないはずが......

「自治体職員がもう一歩踏み出す業務を行っていれば、もっと早く発見できたのではないか」

 そう指摘する警察関係者が、こうも嘆く。
「老老介護も深刻です。高齢夫が認知症の妻を介護したケースでは、夫が死亡した約1週間後、妻が徘徊(はいかい)し、衰弱した状態で発見されたのです。また、高齢寝たきりの夫を認知症の妻が介護していたケースでは、夫の死亡後も、妻は1週間にわたっておむつを替え続けていました」
 このような老老介護の二つのケースでは、警察が事件の可能性も疑い、遺体が司法解剖に回されたという。穏やかではない最期というべきだろう。医療・介護、地域の見守りの目は届かなかったのだろうか。
「病死の可能性が高くても、事件性を疑い、警察が検視に入るケースは少なくありません」
 そう指摘するのは、年間約300人を自宅で看取(みと)っている立川在宅ケアクリニック(東京都立川市)の荘司輝昭院長(53)。訪問診療のかたわら、東京・多摩地区の警察医として年間約600例の異状死の検案を行っている。
 異状死とは、自殺や他殺、交通事故や薬物中毒などのほか、病死の可能性があっても死亡原因が明らかでない死亡なども含まれる。医師は死体を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に警察署に届けなければならない。医師が死因を判断できないときや、死因を特定する医師がいないと、警察の取り扱いになる場合があるのだ。
「主治医やかかりつけ医師は、診療を継続している患者が診療に関連した病気で死亡した場合、死亡診断書を書くことができます。死亡の際、医師が必ず立ち会う必要はありません」(荘司院長)
 医師法では、ふだんから診療を続けている医師ならば、死後24時間以上経っていても「死亡診断書」を書くことができる。つまり、自宅で最期を迎えたいと願う人は、かかりつけ医の定期的な訪問診療を受けていれば、警察沙汰(ざた)にならなくて済むのだ。ところが、である。
「自宅で死亡したとされる約半数の人が、さまざまな事情で異状死として届けられている。地域差はありますが、全国的にも同じような傾向ではないでしょうか」
 そう話す荘司院長が独自に調査したデータを示した。12年、立川市と周辺の計6市の自宅で死亡した943人について調査したところ、約半数の452人が異状死だった。その4分の1に当たる104人はがんや老衰や慢性疾患で、患者の自宅を定期的に訪れて診察する在宅医が関わり、死亡診断すれば異状死として検案扱いされずに済んだケースだった。また、自宅で病死して異状死として届けられた人のうち約8割が一人暮らしだったという。
 荘司院長がこう指摘する。
「病院から退院した後、自宅で過ごす患者が適切な医療とつながっていないケースがあります。さらに、『24時間365日対応』をうたいながら夜間はコールセンター任せで、緊急の場合は、救急搬送を勧める在宅医もいます」
 24時間体制の在宅療養支援診療所は全国に約1万4683カ所(16年3月末時点)ある。自宅で最期まで支えた看取り実績のある診療所は、患者本人や家族に対し、「救急車を呼ばない」ことを指導しているケースが多い。これまで訪問診療の同行取材で訪れた一人暮らしの自宅には、玄関先や冷蔵庫、ベッドの近くにかかりつけ医や訪問看護ステーションの連絡先が貼ってあった。
「『救急車を呼びなさい』と言われ、病院に運ばれて救急台で心臓マッサージをされたとします。搬送先の医師はその人を初めて診た時点ですでに息をしていませんので、病院外死亡として異状死という判断になります。その病院での初診時に心肺停止、あるいは死亡状態の場合、異状死として警察に届けられることがほとんどです」(荘司院長)

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