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告知から最期まで時系列で徹底解説! がんになっても「暮らせる」「働ける」制度

2018年12月23日号

 2人に1人がかかる「国民病」ながら、がんになると約3割が依願退職や解雇をされている。だが、進行に応じた制度を活用することで、がんになっても生活を維持し、働き続けることは可能だ。"網の目"の制度を知って「明日は我が身」に備えよう。

(ライター・早川幸子)

 来年4月の「働き方改革関連法」施行に向けて、新しい労働環境作りが急ピッチで進められている。同法は、労働基準法、労働安全衛生法などを改正し、「長時間労働の是正」などを目指すものだが、同時に企業に求められているのが、がんや難病など継続的な治療を必要とする病気の人の就労支援だ。
 10月15日の「働き方改革フォローアップ会合」でも、安倍晋三首相が「治療と仕事の両立支援」に取り組むことを明言。背景にあるのが、国民病ともいえるがん患者の増加だ。
 今や2人に1人は何らかのがんになるといわれており、1981年以降、日本人の死因の第1位をキープしてきた。背景にあるのは高齢化。だが、高齢化の影響を除いた国立がん研究センターのデータによると、がんの罹患(りかん)率は80年代以降上昇しながら、死亡率は90年代半ばをピークに減少している。つまり、がんになる人は増えているものの、画期的新薬の開発や早期発見技術の進歩などによって、死亡率は減少傾向にあり、がんは「不治の病」から「治る病気」へと変化しているのだ。
 がん患者の就労支援を行っている社会保険労務士の近藤明美さんは、「生存率が改善したのは歓迎すべきこと」としながらも、「がんは治療期間が長期化することもあり、就労をめぐって問題が発生している」という。厚生労働省が行った調査研究「がんの社会学」(2013年)によると、がん患者の34%が依願退職・解雇されているという実態があるからだ。
「就労相談の現場では、がんと診断されたことにショックを受けパニックになって仕事を辞めてしまったり、勤務先の無理解から退職を余儀なくされたケースを耳にします」(近藤さん)
 そこで、16年2月に厚労省が策定したのが「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」である。病気の治療と仕事を両立させる支援制度、企業がとるべき配慮などをまとめたもので、今年3月には取り組み事例をまとめた追加情報も出された。
 がんと診断されて退職する人がいる一方、少しずつ就労支援体制が構築されてきたことで、治療しながら仕事を続けている人も約32・5万人に上る(10年の「国民生活基礎調査」をもとにした推計)。健康保険や年金保険などには、病気やケガをした人の経済的負担を軽くする制度が用意されており、これらを使って、働きながらがん治療をすることは珍しいことではなくなっているのだ。
「ただし、公的制度はいつでも自由に使えるわけではなく、病状や体調によって使える制度や期間が決まっています」
 こう話すのは、NPO法人「がんと暮らしを考える会(通称・がんくら)」の賢見(けんみ)卓也理事長だ。「がんくら」では、「がん制度ドック」というウェブサイトを運営しており、がんと診断された人が、病状や体調によって使える公的制度や民間サービスを検索できるサイトを無料で提供している。
 上図は、がんと診断されてから治療の過程で遭遇する「困りごと」と、それに対応できる制度を示したものだ。では、がんになったときに使える制度を時系列で追っていこう。

 ◇100万円の医療費でも自己負担は約9万円の高額療養費制度

 がんと診断されると不安とともに、湧きあがってくるのが医療費のことだろう。免疫チェックポイント阻害薬の「オプジーボ(商品名:ニボルマブ)」に代表されるように、近年、画期的新薬や放射線治療などが登場し、がん治療の医療費は高額化している。

 だが、日本では病気によって貧困に陥ることを防ぐために、経済的リスクをカバーするさまざまな公的保障がある。覚えておきたいのが健康保険の「高額療養費制度」と「限度額適用認定証」だ。
 通常、病院や診療所では、年齢や所得に応じてかかった医療費の1~3割を負担すれば済む。ただ手術や化学治療などで医療費が高額になれば、一部負担金だけで数十万円単位になることも。そこで作られたのが高額療養費制度で、1カ月に患者が自己負担する医療費に上限を設けているのだ。
 胃がんを患った山本昭さん(50歳・仮名)も、この制度に救われた一人だ。
 高額療養費の限度額は、70歳未満の人は所得に応じて5段階に分類されている(左上図)。年収500万円の山本さんの限度額は、【8万100円+(医療費―26万7000円)×1%】だ。治療では健康保険適用前の医療費が100万円かかったが、山本さんの自己負担額は8万7430円で済んだ。
「以前は、いったん窓口で3割負担したあと、健保組合に申請して限度額との差額を払い戻す手続きが必要でした。でも今は、『限度額適用認定証』があれば、窓口で限度額を超えるお金を支払う必要がなくなっています」(近藤さん)
 限度額適用認定証は高額療養費の所得区分を証明するもので、加入している健保組合で発行してもらえる。早めに入手しておくといい。
 また、高額療養費に該当する月が、直近1年間に3回以上になると、「多数回該当」が適用され、4回目からはさらに限度額が引き下げられる。山本さんの場合、限度額は4万4400円になり、治療が長引いても安心だ。
 原則的に、高額療養費は個人ごと、1カ月ごと、医療機関ごとに計算する。ただし「世帯合算」という仕組みがあり、「同じ月に家族の医療費も高額になった」「一人が複数の医療機関を利用した」「同じ月に入院と通院の両方をした」場合はまとめて申請できる。合算できるのは、同じ健康保険に加入している家族の医療費で、自己負担額が2万1000円を超えたものだ(70歳未満の場合)。
「例外は院外処方の薬代。その病気の治療のために医師に処方された薬は、2万1000円を超えなくても合算できます。世帯合算は医療機関では対応してもらえないので、対象になる人は健保組合に申請してください」(近藤さん)
 法律で決められた給付以外に、独自の保障を上乗せする「付加給付」のある健保組合なら、所得に関係なく高額療養費の限度額が2万~3万円というケースも。こうした健保組合に加入しているなら、医療費の心配はまずないといっていい。
 また、1年間に支払った医療費が10万円を超えると、「医療費控除」の申告ができ、支払った税金の一部を取り戻せる可能性も。家族全員の医療費をまとめて申告できるが、家族の中で所得税率が高く、課税所得の多い人が申告すると有利だ。

 

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