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引き裂かれた「大地を継ぐ心」 東日本大震災5年のフクシマ

2016年2月28日号
 福島で農業を営む人々はどんな暮らしをしているのか?
 井上淳一監督の「大地を受け継ぐ」はその一面を明らかにしてくれる。といっても、これは十数人の学生たちがある農家の母と息子に話を聴くだけのドキュメンタリーである。が、その話がとてもいい。
 時は2015年5月、場所は大惨事を起こした福島第1原発から約65キロの福島県須賀川市の農家の居間。大きな食卓を囲んで、息子の樽川和也が事故後どう過ごしてきたかを、学生たちにつぶさに語り、時折母の美津代が口を添える。
「地震の翌朝、いざ家についたら廃虚みたいになっていた......3月23日、出荷停止で8000個の結球野菜が全滅した......おやじは『おめえに農業継がせて失敗だった』と......24日朝、おやじはキャベツ畑の所に立っているように見えたが、足が地面についていなかった......」
 息子の抑制した静かな語り口に、誰しもが引きつけられよう。当時の農家の実態が見えてくるようだ。話そのものがドラマチックなドキュメントになっているからだ。
 彼はまた、「放射能に汚染された作物でも、作ってみて販売できないと証明されて初めて東電が賠償する仕組みだから、食べられない物でも作らざるを得なかった」と、倒錯した状況を苦渋を込めて明かす。そして自殺した父は農薬を嫌い、常々いい土が必要なのだと、食べることの大切さを訴えていたと、農業を介して人間の生きる基本を話す。
 一人の学生が質問する。
「福島県産の物は食べないという人をどう思うか?」
 すると彼は、「生産者ながら、その気持ちはわかる。汚染された物は食いたくないもん。それは風評でなくて現実だ」と。彼は自分が食べない物を売る農家の「罪の意識」についても吐露する。その言葉は重い。大地を受け継いで生きていかざるを得ない者の、引き裂かれた気持ちが伝わってくる。ぜひ見てほしい一本である。
(木下昌明)

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