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金正男氏殺害事件の深まる「謎」 北朝鮮"金王朝"血筋巡る抗争か

2017年3月12日号

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄である金正男(ジョンナム)氏(45)が2月13日、マレーシアの首都クアラルンプールの国際空港で殺害された事件。北朝鮮による国家ぐるみの犯行だった疑いが強まっているとはいえ、事件の謎は深まるばかりだ。
「日本人は、それほどまでに金正男が好きなのか」と韓国人が苦笑するほど、日本での報道は過熱気味だ。しかし、捜査中のマレーシア警察や韓国の情報機関・国家情報院や韓国政府からの情報が遅く、かつ興味本位としか思えない情報も混ざり、事件の本質や背景が結局どこにあるのか、見えてこないのが実情だ。
 そのため、「今回の事件で誰が得をするのか」がよく分からず、北朝鮮ウオッチャーの一人である筆者も違和感を感じている。
 これまで判明した事実を列挙してみよう。まず、マレーシア警察によれば、被害者は北朝鮮の外交官パスポートを持つ「キム・チョル」という男性。遺体からは猛毒の神経剤VXが検出された。同警察は殺害の実行犯としてインドネシアとベトナムの国籍を持つ女性2人、クアラルンプール近郊に住む北朝鮮国籍の男性1人を逮捕した。韓国政府によれば、殺された人物は金正男氏と同一人物に間違いないという。
 被害者の特定には家族や親族のDNAサンプルが必要だが、いまだ未採取。北朝鮮側は、メディアが報じる北朝鮮による犯行説を否定している。遺体の返還要求を続け、検視結果も受け入れていない。かつ事件の対応についてマレーシア政府を強く批判している。
 現地報道によれば、被害者はこれまで日本で報道されてきた金正男氏とよく似た人物だが、公式にはまだ特定されていない。「いまさら我々が金正男氏を殺す理由はない」と前置きしたうえで、北朝鮮政府関係者がこう打ち明ける。
「正直に言えば、金党委員長の権力基盤は揺るぎなく、金正男氏は国内ではほとんど知られていない。権力にとって、何ら関係のない人物です」
 また、金正男氏が殺害された理由として「韓国亡命説」も取りざたされたが、同関係者は「中国の一定の保護を受けながら、海外を自由に飛び回ることが、韓国に行っても可能だろうか」と指摘する。
 実際に、1997年に韓国に亡命した高官中の高官、黄長(ファン・ジャン)ヨプ氏は、韓国の政権交代なども相まって自由に活動できないままソウルで死去した。金正男氏はこれまでも欧州や東南アジアなどで目撃されるほど、自由な行動を繰り返していた。韓国での生活よりも、確かに現在の方が自由がきく。
 仮に、北朝鮮の犯行だとすれば、筆者が特に腑(ふ)に落ちないのが、殺害の手口だ。空港という公共スペースや自国民を実行犯に使わない手口は、これまでの北朝鮮の手法とは大いに異なる。すでにマレーシア国外に逃亡したとする北朝鮮関係者を含めると10人近い人数による犯行である点も、少数精鋭が通例とみられる北朝鮮としては、やり方が随分と荒っぽい。
 しかも、防犯カメラが張り巡らされている場所で、「いたずら」に見せるやり方は、北朝鮮の犯行とすればあまりにお粗末というしかない。
 金正男氏が死亡したことで、マレーシアと北朝鮮の関係を見ると、確かに北朝鮮のイメージは毀損(きそん)された。さらには、「核やミサイルで経済制裁をしても、わが国はそれほど状況は悪化していない。そうであるならば、米国や韓国が"人権"を持ち出して、北朝鮮が暗殺さえ行うほどの人権無視・蹂躙(じゅうりん)国だとしてイメージダウンを狙っているのか」(前出の北朝鮮政府関係者)との恨み節さえ聞こえてくる。
 確かに、北朝鮮による犯行という見方が大勢だ。それが正しいのなら、「"金王朝"の血筋の正統性を巡る兄弟間の血生臭い争いが殺害理由」という感情的で非論理的な理由が最もしっくりくる。そこまで人の恨みは恐ろしく、かつ深いのか。
(浅川新介)

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