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青い空白い雲
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貸金庫に「金の延べ棒」を入れる人は「お金持ち」?

2019年11月10日号

牧太郎の青い空白い雲/741 

 最寄りのM銀行支店の「貸金庫」を利用している。
 長いこと、東京・柳橋で料亭を営んでいた母が生前「酒は菊正宗、ビールはキリン、醤油(しょうゆ)はキッコーマン......『3キ』と言って、これは変えてはいけないよ。それに、銀行はMだよ。浮気してはいけないよ」と言い続けていたので、必要もないのに"義理"で今でも貸金庫を利用している。
 貸金庫はめんどくさい。金庫室に入るのにカギがいる。入ってから、今度は自分の金庫を開けるのに別のカギが必要。それに暗証番号を覚えていなければならない。
 使用料は年間約4万円。馬鹿にならない。
 しかも、当方の場合、入れているのは「不動産の権利証」だけである。
 解約しようかな?と何度も思ったが......こちとら、江戸っ子だ。マイナス金利で青息吐息の銀行さんに「4万円節約するので、貸金庫を解約します」なんて言えない。
    ×  ×  ×
 大体、銀行の貸金庫に「何」を入れるべきなのか? それが分からない。
 預金通帳、保険証書、不動産権利証?
 印鑑(実印)、貴金属、宝飾品、骨董(こっとう)品?
 現ナマをそのまま入れる人もいるんだろうか?
 銀行マンだった友人に会った時に「貸金庫の利用法」を聞いてみると、「お前のように不動産権利証を入れるのは少数派だろう。火事で消失しても、コンピューターの時代だから、この種の権利書類は存在する。それより、遺言書、アルバム、それに思い出のラブレターなんかを入れる。まあ、長く保管しても変質せず、銀行にも損害を与えないものであれば、何を入れても問題がないから」と説明してくれた。
 貸金庫に入れる「大事なもの」も人さまざま!ということか。
「でも、ラブレター派も少数派だな。お前の住んでいる辺りでは、圧倒的に地金(じがね)派が多いだろうな」
「地金?」
「金の延べ棒のことだよ」
    ×  ×  ×
「地金」ブームらしい。
 金の国際指標であるニューヨーク先物価格は8月に入って〈1トロイオンス=1500ドル〉を突破。6年ぶりの高値を付けた。
 高値の背景は?(この辺のことは、全く不案内だからよく分からないが)原油輸出の要衝・ホルムズ海峡周辺の米国とイランの緊張などが原因ではないのか?
 米中貿易摩擦、香港デモ、日韓対立......政治的・地理的に不透明感が強まっている。
 銀行マンだった友人は「世界の中央銀行が軒並み、金の購入量を増やしている」という。
 後で、調べてみると、金の業界団体ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、今年上期、世界の中央銀行が計374トン(約170億ドル)の金を買い増している。
 日本でも、約40年ぶりの高値水準?
 金価格が高いうちに売却するか?
 このまま、貸金庫に眠らせるか?
「お金持ち」は悩んでいるらしい。
    ×  ×  ×
 でも、考えてみれば「A4サイズの貸金庫」に入る金の延べ棒なんて、高が知れている。
 はっきり言えば、貸金庫に金の延べ棒を入れるのは「お金持ち」ではなく、単なる「疑い深い人」ではあるまいか?
 彼らは、紙幣(日本銀行券)がある日突然「紙切れ」になるんじゃないか?と疑っている。
 政府が「100年安心」と謳(うた)っていた年金。ところが、本当は〈65歳以上の夫と60歳以上の妻の無職の世帯の場合、老後30年生きると約2000万円不足する〉と聞かされた。そこで、彼らは〈本当は3000万円不足!ではないか?〉とうたぐる。
 要するに、貸金庫は何も信じられない人たちの「安全地帯」みたいなものだろう(「脱税のため!」という説もあるが、地金の売却記録と金額の資料は居住地の税務署へと報告されるから脱税は無理)。
 まあ、彼らだけでなく、日本人の多くが「国の金庫が空っぽ」になることを予感しているのも事実だが。

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