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青い空白い雲
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暴力団問題より気になる「芸人の金欠・公務員の金満」

2019年7月21日号

牧太郎の青い空白い雲/726 

 もう「時効!」と思って書くのだが、30年以上も前のことだ。
 某大物演歌歌手が暴力団◯◯会のパーティーで歌っていたのを毎日新聞静岡支局がスクープ。NHK紅白歌合戦に出場できなくなった。その騒動の最中、親しくしてもらっていた大物歌手の弟さん(事務所の社長)から「相談したいことがある」というので、指定されたホテルに出向いた。「隣の部屋に◯◯会の会長がいるんだ。『迷惑を掛けた。これは見舞金だ。黙って受け取ってくれ』と言うんだ」。弟さんは困惑していた。
「どのくらい?」と聞くと「3000万円はあるな。どうしたらいいんだ!」。
「受け取れよ。受け取らないと厄介なことになる」とあっさり答えた。「見舞金、拒否」を知った子分が何をしでかすか分からない。大物歌手の顔が傷つけられたら、商売にならない。「大物歌手」でメシを食っている人が10人、いやいや100人ぐらいはいるだろう。その連中が路頭に迷う。
 弟さんは「新聞は見舞金のことを知ったら書くだろう?」と聞く。「ちょっとしたスクープだけど、俺は書かないよ」と笑ってみせた。弟さんがどんな選択をしたか? あえて聞かなかった。
 メディアは「反社会的勢力と付き合うな!」と簡単に言うけれど「暴力団と芸能界」の関係がそう簡単に切れるはずはない。
    ×  ×  ×
 吉本興業の芸人の「闇営業」「反社会的勢力との付き合い」が問題になっているが、もともと吉本興業はヤクザと深い関係にあった。
 その昔、2代目社長の林正之助さんは芸能プロダクション社長と組んで、レコード会社の乗っ取りを画策。その時、2人は「電話一本で山口組員300人を呼んで血の雨を降らしてやる」と凄(すご)んだ!として、恐喝容疑で逮捕された(1968年1月)。
 林さんは当時の山口組組長・田岡一雄さんと格別、深い付き合いだった。田岡さん自身「神戸芸能社」を経営していた。その後、林さんは会長になった時「ヤクザとは一切関わってはいかん。飯や酒の席はもちろん、電話で話すのもいかん。目を合わせてもいかん。同じ空気を吸うてもいかん」と訓示しているが、それだけ、林さんは「反社会的勢力の隅から隅まで」知り尽くしていた証拠だろう。
 芸能界とヤクザの関係は、ほとぼりが冷めれば、必ず復活する。
    ×  ×  ×
 それより、気になるのは芸人が「闇営業」に手を出さざるを得ない「悲しい格安ギャラ」である。
 通常、芸人と所属事務所のギャラの配分は〈5:5〉。良心的な事務所では〈7:3〉というところもあるが、逆に〈3:7〉と芸人に厳しいケースも多い。1時間、舞台に立って100円!なんてこともあるらしい。彼らは「直」とか「職内」とかいう名の闇営業で生活する。吉本興業所属の芸人はざっと6000人。その大半が金欠状態なのだ。
 4月、吉本興業は安倍首相を大阪市中央区のお笑い劇場「なんばグランド花月」の舞台に上げたり、6月6日には吉本芸人がそろって官邸に「ご機嫌伺い」に行ったり、時の権力との「蜜月ぶり」をアピールしているが、吉本興業の実態は「若手芸人を搾取すること」で成り立っている。
    ×  ×  ×
 格差の時代だ。非正規雇用の人々が安い賃金で働かされ、青息吐息の毎日だ。なぜ、一部の人たちだけが豊かな生活を保障され、多くの貧乏人が「老後2000万円不足」で"野垂れ死に"の不安に脅(おび)えているのか?
 友人が「こんな時代になると公務員の天下だ」と言い放った。そういえば、公務員のボーナスは7年連続でアップ。平均年齢35・5歳の若さで平均支給額(管理職をのぞく一般行政職)が67万9100円。「非正規」から見れば夢のまた夢? たまにテレビに出る吉本の芸人にとっても「夢のまた夢」の金額ではないか?
 年金でも優遇されてきた。公務員(国家・地方)と私立学校教職員の共済年金は、2015年10月に厚生年金に一元化したが、それまで、民間会社員と比べ、平均受取額は月額5万~6万円、多かったらしい。
 公務員にも、例の「老後2000万円不足」の不安はあるのかしら。
 公衆への奉仕者である「公僕」だけが恵まれているとしたら...... 今の日本はちょっとヘンだ。

 ◆太郎の青空スポット
 軽井沢アンブレラスカイ
 避暑地・軽井沢「星野エリア・ハルニレテラス」に100本の雨傘がぶら下がっている。カラフルな傘が曇天を隠す。気分が変わる。梅雨が明けるまで。午後10時までのライトアップも乙なものだ。
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 ◇まき・たろう
 1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある

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