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青い空白い雲
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死ぬまで働け!というが「人生100年」は本当なの?

2019年6月23日号

牧太郎の青い空白い雲/722 

「人生100年時代」って本当なのか? はなはだ、疑問だ。
 今、日本人男性の平均寿命は81・09歳(2017年)。これが一足飛びに100歳まで上がる!とは到底思えない。
 厚生労働省などの推計の「長生き見込み」を見ると、25年に65歳を迎える男性(1960年生まれ)の38%が90歳まで生きる。女性は64%が90歳まで生きるそうだが、さすがに「100歳の長寿」は難しい。女性でも「100歳まで生きる人」は17%にすぎない。
 多分、平均寿命が100歳を超えるのは30年から50年ぐらい先のことではあるまいか?
 それなのに、昨今、安倍内閣は「人生100年時代」という文句を頻繁に使う。何か「魂胆」があるのだろう。
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 首相が議長を務める「人生100年時代構想会議」なるものがスタートしたのは、2017年9月のこと。初会合でプレゼンテーションを任されたのは、英国ロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン教授。安倍首相の要請を受け、教授は「70歳、80歳になるまで働くことを考えてみてください」とスピーチした。
 安倍さんがこの会議に求めたキーワードは「100歳」ではなかった。「80歳」だった。
 100歳まで生きることが目標ではなく、目標は「80歳」。つまり、雇用義務化の終着点が80歳(つまり80歳定年)。年金の「80歳支給開始」......それが「魂胆」なのだ。
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 今、議論になっている高年齢者雇用安定法改正案の目玉は企業に「70歳まで働ける環境」を整えるように求めることである。
 1986年、この法律の改正で「60歳定年」が努力義務となり、98年に義務化された。「65歳までの雇用確保」が2000年に努力義務になり、04年に段階的に義務化、12年には全面義務化された。
 努力義務が数年後、必ず義務化される。つまり、今回の改正で「70歳定年」時代がやってくるのだ。
 そこで何が起こるか? 職場環境も変わるだろうが、一番、気になるのは「年金の決まり」が変更されることである。
 雇用と年金は言わば「コインの裏表」。70歳まで働けるようにすれば、政府は、年金支給開始年齢も65歳から70歳に引き上げることができる(希望者には「75歳まで引き上げ」も可能)?
 つまり、今回の改正で「70歳定年」になる代わりに「年金支給開始」も70歳になる手筈(てはず)だ。
 ゆくゆく「80歳定年」「80歳で年金支給開始」の明日が待っているかもしれない。
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 当方、今年10月で75歳になる。正直言って「まだ働ける!」というのが実感である。
 100歳生きることには自信がないが、あわよくば「80歳まで働く」覚悟は持っている。多分、多くの「健康な高齢者」が当方と同じ気分だろう。
 でも、それには「終身雇用」が完全に維持され、正社員として働ける!という前提があるからだ。
 その「終身雇用」は今や、風前の灯(ともしび)である。トヨタ自動車の豊田章男社長までが「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきたのではないか」と発言している。
 50歳を超えたらリストラ予備軍である。70歳まで雇用が保障されるのは絵に描いた餅である。
 70歳まで働くことは労働者にとって良いことかもしれない。でも、終身雇用が崩壊した状態で70歳まで働くのはまさに地獄だ。当方の周辺でも、60歳を過ぎて転職しようとしても「条件の良い職場」はほとんどない。
 会社が継続雇用に応じてくれたとしても、身分は契約社員。低賃金は目に見えている。
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 もう一つのキーワード「働き方改革」にも「魂胆」が見える。「改革」と美名を駆使しているが、大企業が安く酷使できる労働力を大量につくりたいだけである。
 安い労働力を手に入れるには「70歳の低賃金労働者」は手っ取り早い。彼らの存在で、全体の賃金は上がらず、ますます貧富の格差が拡大する。
「70歳定年」は、政府と大企業が進めている外国人労働者の大量雇用と同じ発想なのだ。
 働くのはよいけど「働く70歳」「働く80歳」がこの国をダメにしてしまう。
「人生100年時代」は、詐欺師の謳(うた)い文句だ!

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