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青い空白い雲
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「令和」の出典『万葉集』を信じ「昭和の若者」は玉砕した!

2019年5月19日号

牧太郎の青い空白い雲/717 

「令和」と元号が変わって大騒ぎ。号外を奪い合って転倒する「日本人の姿」まで報道された。どうにも「普通」ではない。
「令和」という言葉の"響き"が好きだ(実は「最終6原案」に残らなかったが、二松学舎大元学長の石川忠久さんが提案されたという「光風(こうふう)」はもっと好きだ。ただ「宋史」周敦頤(しゅうとんい)伝の「光風霽月(せいげつ)」から来ているので「日本固有ではない」という理由で消されたらしい。残念だ)。
「令和」は好きだが、安倍首相がことさら「日本固有の文化を出典として......」と強調するのが嫌だ。聞くところによると「日本固有」が初めから決まっていたらしい。
 でも、日本の古典は全て「漢字文化」によって成り立っている。「外来文化」を否定することはできない。確かに、『万葉集』の〈梅花の歌三十二首〉の序文に〈初春令月、気淑風和(初春の令月(れいげつ)にして、気淑(よ)く風和ぐ)〉という一節がある。これは大伴旅人が詠んだとされているが、この一節は、後漢の文学者・張衡(ちょうこう)による「帰田賦(きでんのふ)」の一節〈於是仲春令月 時和氣清(仲春令月、時和し気清らかなり)〉を踏まえて詠んだものだ。「令和」のお手本は「漢籍」だ。
 それをわざわざ「日本固有」と強調する「狙い」は何か?
 一種の「国風キャンペーン」だろう。「日本固有」にこだわるのなら、新幹線の「ひかり」「のぞみ」のようにすればよいのに(笑)。
 安倍首相は「令和」をテコに〈国風キャンペーン→憲法改定〉を展開するつもりなのだろう。突然の「日本固有」は気持ち悪い。
    ×  ×  ×
「新元号」騒ぎが一段落したので、書こうと思う。「令和」の出典とされた『万葉集』には"悲劇の過去"が隠されている。これを書きたい。
「海ゆかば」をご存じだろうか?〈海行(ゆ)かば/水(み)漬(づ)く屍(かばね)/山行かば/草生(くさむ)す屍/大君(おおきみ)の/辺(へ)にこそ死なめ/かへりみはせじ〉
 昭和ヒトケタ組なら、一度は歌った"国民歌謡"である。
「海ゆかば」は日本放送協会が信時潔(のぶとききよし)さんに作曲を依頼し、昭和12(1937)年、国家への忠誠心を高める国民精神総動員強調週間でラジオ放送された。その後、戦争が激化し、ラジオの大本営発表で「玉砕」が報じられるたびに、必ず流れた。勝ち戦を発表する場合は「敵は幾万」、陸軍分列行進曲「抜刀隊」、行進曲「軍艦」などが使われたらしい。
 勇ましい「海ゆかば」の元歌は『万葉集』巻十八「賀陸奥国出金詔書歌」にある。「陸奥国に金を出す詔書を賀す一節」で、旅人の子、大伴家持の作品である。
 その歌の意味は「潔く死のう!大君のお足元にこそ死のう。後ろを振り返ることはしない」。
 昭和の若者は「海ゆかば」を歌いながら、天皇万歳!と叫びながら玉砕した。
 当時の軍国主義の面々が『万葉集』を利用し、若者を天皇のために犠牲になれ!と教えた(現実には、明治天皇は大元帥にされたが、それでも、日清戦争の開戦に反対していた。歴代の天皇は平和主義だった)。
 軍国主義者は「天皇の威光伝説」を利用して、大陸侵攻を試み、結果として、若者を犠牲にした。
『万葉集』から由来の「海ゆかば」は悲劇の歌である。
    ×  ×  ×
「10連休」は混雑するはず?と思い、それより早く(取材を兼ねて)「日本海沿い」を旅行した。なぜか、今年は桜が長持ちして、4月半ばになっても、山陰地方はどこに行っても「満開」だった。
 桜が好きだ。だから、日本人が「令和」決定と「桜満開」を重ね合わせ、祝賀気分に浸っている気持ちがよく分かる。
 いつものことだが、日本人は「桜吹雪」をイメージして、
咲いた花なら 散るのは覚悟!と歌った。
見事 散りましょ 国のため!と歌った。潔い。
 日本人は、一陣の風で、みんなで一斉に咲いて、一斉にパッと散ろう!と思っているのかもしれない。
「令和」の時代、日本という国には「どんな風」が吹くんだろうか?
「平和に成ろう」という誓いが「平成」だった。新しい「令和」は? もしかして「命令主義の風」が吹き荒れて......。まさか、そんなことはない!と思うが、集団主義、全体主義、命令主義の足音が聞こえるのも事実だ。
「令和」決定の号外に殺到する日本人を見て「危うさ」を感じた。安倍首相が、わざわざ記者会見を開き「日本固有の文化を出典として......」と強調するのを見て「かつての軍国ニッポン」を思い出した。ちょっぴり不安な「令和元年の春」ではないか?

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