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平成とは――身分格差に立ち向かうアウトローがいなかった!

2019年4月14日号

牧太郎の青い空白い雲/713 

 京都・南禅寺の山門の屋上、大盗賊・石川五右衛門が煙管(きせる)を吹かして「絶景かな、絶景かな。春の宵は値千両とは、小せえ、小せえ。この五右衛門の目からは、値万両、万々両......」と名セリフを吐く。歌舞伎「楼門五三桐(さんもんごさんのきり)」の名場面は、南禅寺の桜が満開になる季節だった。
 芝居では五右衛門は明国の宋蘇卿の遺児。かねて養父「武智光秀」(モデルは明智光秀)の仇(かたき)として、つけ狙っていた「真柴久吉」が実父の仇でもあることを知る。怒りと復讐に震える五右衛門。
 場面は変わって、捕り手が二重三重に大泥棒を包囲する。ここでも、名セリフが用意されている。
「石川や 浜の真砂(まさご)は尽きるとも 世に盗人(ぬすびと)の 種は尽きまじ」
 日本人なら、このセリフはご存じだろう。
 実は、この五右衛門は実在の人物。文禄3年(1594)、京都・三条河原で釜茹(ゆ)でにされて処刑されたが、歌舞伎や浮世絵の世界では「ヒーロー」として、庶民の喝采を浴びた。人気の秘密は、五右衛門が狙った「真柴久吉」なる人物は「天下人・豊臣秀吉」がモデル。五右衛門は、法の外にいて、時の権力者と"五分に"戦うアウトローだった。
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 東京下町、隅田川沿いで育ったからか、磔(はりつけ)・獄門になった「とんでもない奴(やつ)」が好きだった。「鼠小僧次郎吉」「国定忠治」「白浪五人男」......。江戸っ子は悪政の権力者に一人で挑むアウトローが大好きだった。
 江戸は士農工商の身分制度を体現した「武家中心」の街。古地図を見れば分かるが、町の殆(ほとん)どが武家地、寺社地で、残された僅かな土地に大多数の町人が押し込められて生活していた。
 格差の時代。人々は、常に「武士の下」に位置付けられ、一部の「大店(おおだな)」の金持ちに、こき使われる。人々が「お上」と「お上と結びついた悪徳商人」に対抗意識を持つのは当たり前。「弱きを助け、強きをくじく」義侠(ぎきょう)心のアウトローは人々の憧れだった。
    ×  ×  ×
 あと1カ月で「平成」が終わる。この30年、日本人は何を経験し、何を学んだのか?
「平成」時代を振り返ると、いくつかの特徴に気づく。一つが「アウトロー不在の時代」である。
「平成」は江戸時代並みの、あるいは、それ以上に「身分格差」が激しい時代だった。この30年で、膨大な貧困層が形成された。等価可処分所得が全人口の中央値の半分に満たない層の割合を示す「相対的貧困率」は1985年の12・0%から、2015年には15・6%に膨らんだ(厚生労働省の「2016年国民生活基礎調査」による)。人数に置き換えると、この貧困層は1400万人から2000万人近くになる。非正規雇用が急増して、多くの若者が預貯金ゼロの「その日暮らし」。
「お上」は(特に安倍政権では)所得税の最高税率や法人税を引き下げ、その穴埋めのように消費増税で庶民生活を痛めつけようとしている。江戸時代より醜い「身分格差」ではあるまいか? 社会的亀裂は明確に進んでいる。
 反権力のアウトローが登場してもおかしくない。
    ×  ×  ×
 でも、小説でも、テレビドラマでも、もちろん、実社会でも「アウトロー」は現れない。
 なぜだろう。
 それは日本国憲法を土台に諸法令が整備された「昭和」の時代を通じ、人々が「法律万能」に慣れてしまったからだろう。それが証拠に「平成」初頭にテレビに登場した「コメンテーター」という役割は圧倒的に弁護士が多い。何事も「法律万能」。アウトローの言い分は抹殺された。
「弱きを助け、強きをくじく」とか、「自他の心」(自己にも他者にも誠意を持って生きる)とか言っても「法律違反だ!」といわれれば、身も蓋もない。
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 法律が正義であれば、アウトロー不在でもいいだろう。しかし「平成」という時代は「(時に)法律が不正義」だった。
 安倍首相に忖度(そんたく)した財務官僚の「森友・公文書」書き換え事件は明確な「法律違反」だが、闇から闇へ葬られた。
 正義の味方、警視庁捜査2課はここ数年、政治家、高級官僚の贈収賄事件摘発ゼロ。正義の味方、大阪地検は「証拠偽造」までやってしまった。
 法律が不正義? 「平成」は、「お上」が法律を悪用し、さらに「身分格差」を助長した時代。
 次の時代、身分格差がこれ以上激しくなれば......「アウトロー復活!」の狼煙(のろし)が聞こえるようだ。

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