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青い空白い雲
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がん患者登録急増にソ連並みの「狡猾な数字」を感じる

2019年3月 3日号

牧太郎の青い空白い雲/707 

 病院に行くので、久しぶりにJRを利用した。午後からなので多分、空(す)いているだろう。脳卒中の後遺症で右半身不随の僕は座席が取れないと困る。
 ちょっとぐらい混んでいても、優先席があるじゃないか?
 実は、これが大間違いだった。優先席はあるけど、若者たちが陣取って、スマホに夢中である。
 窓に「優先席」の表示がある。その下には、杖(つえ)をついた老人、けが人、子連れ、妊婦などを表すイラストが描かれている。杖をつく障害者だから、座る権利はあるから「譲ってくれ!」と言おうと思ったが......ヘタに声を掛けて、若者とトラブルになったら......。しかも、である。周囲の人は見て見ないふり。普通の座席の人も僕に譲ってくれる気配はまるでない。
 ああ、昔なら、年寄りが乗ってくれば、若者はスッと立ち上がったものだが......まあ、右を見ても、左を見ても「老人ばかり」という雰囲気だから仕方がないか。
 それにしても「優先席」の表示は「オタメゴカシ」。半分、嘘(うそ)だ。
    ×  ×  ×
 たどり着いた病院で医師と雑談。「牧さん、コレ、変だと思いませんか?」と彼が一枚のデータを見せてくれた。
「がん登録等の推進に関する法律に基づく、全国がん登録罹患数・率2016年集計報告(速報)」というものだ。2016年に新たに診断された全国がん登録罹患数は99万5132人。男女別など、詳しい数字が並んでいる。
「なるほど、がん患者は男の方が多いんですか?」と聞くと「それはともかく、ヘンなのは......前の年と比べると、がん患者が多すぎるんですよ」と言う。
 確かに、2015年は89万1445人だから、1年間で10万人以上、増えた勘定になる。この調査は、全ての病院に、がん患者のデータの届け出を義務づけた「全国がん登録」という新しい制度で行われたもの。新しい制度になると、こんなに差が出るのか?
 わざわざ、がん患者数をかさ上げする必要はないと思うし、我々は「権威」が発表した数字を信じるしかないのだが......専門家でも「?」というのなら「半嘘」かもしれない。
    ×  ×  ×
「狡猾(こうかつ)な数字」と題する論文がある。1987年、ソ連作家同盟機関誌『ノーヴィ・ミール』誌に掲載された、経済学者G・ハーニンとジャーナリスト、V・セリューニンの共同論文「狡猾な数字」。ソ連の経済統計における「水増し」を実例を挙げて鋭く告発したものだ。
 なかでも、「1928年水準の約90倍」と"公式に発表された"85年の旧ソ連の国民所得のデータは、真っ赤な嘘で、実際には6~7倍だったことが暴露され反響を呼んだ。一党独裁の当時のソ連は「アメリカより経済成長が順調!」と言いたいばかりに、めちゃくちゃな統計偽装をやっていた。まさに「狡猾な数字」である(この論文については、比較経済体制学会会報「ソ連の経済実績再考―G・ハーニン推計とその含意」栖原学(すはらまなぶ)著に詳しい)。
    ×  ×  ×
 今でも、独裁国・中国では統計偽装が日常茶飯らしい。「2018年のGDP(国内総生産)は前年比6・6%増」と発表しているが、多分「半嘘」だろう(中国人民大学の某学者は中国のGDPの伸びは1・67%と述べている)。
「安倍1強」と言われても、日本は民主主義の国だ。こんなことはない!と信じているが......怪しいこともないではない。
 2015年9月、自民党総裁に再選された安倍首相はいきなり「GDP600兆円の達成!」を政策の柱に据えた。すると、お役人はGDPの算出方法を変える。15年度から研究開発費なども組み入れる「国際基準」に変更し、新しく項目を追加したので、16年12月に発表された「15年度の名目GDP」は旧基準より約31兆円も増えた。
「大嘘」とは言わないが「半分、嘘」のような気がする。
 実は、あの医師が「ヘンだ!」と言った「がん患者登録急増」の謎は「GDPかさ上げ疑惑」と関係するような気がして......日本も「狡猾な数字」だらけだ。

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