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青い空白い雲
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「W杯」興奮の陰で"半端ない殺人狂時代"がやって来た?

2018年7月15日号

牧太郎の青い空白い雲/676 

 殺人が続いている。W杯の感動リポートがなければ、ワイドショーを埋め尽くすであろう「奇怪な殺人事件」が次から次へと起こっている。
 姉が練炭自殺を装って弟を殺す。「誰でもいいから」「むしゃくしゃするから」との理由で、新幹線の車内で鉈(なた)を振り回す男。東大大学院卒の超エリートが犠牲者になった。ネット上の「恨み」からインターネットセキュリティー会社の社員を刺殺した男は、犯行後「これから交番に行く!」とネット上に書き込んだ。富山県の「交番襲撃」事件では、警察官ら2人が犠牲になった。
 どうやら英雄気取り? 空想の世界と「現実」を"ごちゃ混ぜ"にしているのではないか。このところ、次から次へと起こる殺人事件はどれもこれも「奇妙奇天烈(きてれつ)」の部類である。
    ×  ×  ×
 不可思議の筆頭は、浜松市浜北区の看護師、内山茉由子(まゆこ)さんが犠牲となった死体遺棄事件である。「儲(もう)け話がある」というネット上の書き込みで知り合った男が3人。落ち合った日に彼女を拉致。数日後、無残な遺体が発見された。
 防犯カメラに「人さらい」の現場が映っていたこともあって、2人は逮捕された。「第3の男に50万円の報酬で拉致を手伝った」と供述した。その数日後「第3の男」は死んでいるのが見つかった。自殺らしい。
 逮捕された2人とも被害者と面識がないという。腑(ふ)に落ちない。静岡県警は6月16日、「第3の男」を逮捕監禁容疑で指名手配したが、男が新潟市内のホテルで遺体で見つかったのは15日午前。警察を疑うつもりはないけれど「容疑者の自殺」を知って、慌てて「指名手配」の形を作ったのではないか? しかも「容疑者自殺」の発表は19日午後。国民がW杯で夢中になっている「時間」を選んでいる。
 ともかく、妙な事件だ。
 動機が分からない。面識のない女性を50万円も使って監禁するのだろうか?
(警察も含め)誰かが「何か」を隠している。
    ×  ×  ×
 俳優のチャップリンが喜劇色を抑え、珍しくシリアスな展開で話題になった映画「殺人狂時代」(1947年)をご存じだろうか?
 よく分からない動機で、次々に殺人を続ける主人公アンリ・ヴェルドゥ。処刑に向かう前のセリフ"One murder makes a villain; millions a hero. Numbers sanctify"(「一人の殺害は犯罪者を生み、100万の殺害は英雄を生む。数が殺人を神聖化する」)が話題になった。
 数多く殺せば、神になる。大量殺人の戦争を神聖化する......。元々、英国国教会牧師で奴隷廃止論者、ベイルビー・ポーテューズが使った言葉で、「大量殺人=戦争」を痛烈に批判したセリフだった。
 この頃、ソ連をはじめ東側諸国との冷戦が始まったアメリカで、このセリフは「容共的である」とされ、チャップリンは「赤狩り」の標的に? 1952年、ロンドンに向かう船の途中、トルーマン政権の司法長官ジェームズ・P・マグラネリーから事実上の国外追放命令を受ける。チャップリン自身が「僕の最高傑作」と言った「殺人狂時代」は政治的な作品でもあった。
 実は、日本映画にも同名の「殺人狂時代」(1967年)が存在する。「大日本人口調節審議会」という組織が人口調節のために「無駄と判断した人間」を秘密裏に殺す!というストーリー。これもまた、恐ろしい映画だった。
    ×  ×  ×
 訳の分からない殺人事件が頻繁に起こる。当方は「殺人狂時代」の到来を感じてならない。
 人々が「命」を軽々しく感じている。指導者が"最大限の圧力"と称して「戦争をやるぞ!やるぞ!」と脅す。米朝首脳会談以降、異母兄を殺害した弟、金正恩(キム・ジョンウン)・朝鮮労働党委員長を最高のリーダーのように賛美する向きまで現れた。
 指導者までが「人の命」を無視している。そんな空気が「殺人狂」を生んでいるのではないか?
 W杯が終わったら「殺人列島ニッポン」のことを真剣に考えようじゃないか。

 

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