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青い空白い雲
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「女郎心中」に似た「自裁死の西部邁さん」は弱虫?

2018年4月29日号

牧太郎の青い空白い雲/666 

「古書」が専門の名古屋大学大学院の塩村耕教授が、嘉永3(1850)年刊行の『想山著聞奇集(しょうざんちょもんきしゅう)』に収録された「心中寸前に逃げ出した男」のことを『中日新聞』で紹介している。
 実に滑稽(こっけい)で面白い。そこで、引用させてもらう。
 まだ目が見えていた頃の「按摩(あんま)・可悦」の体験談。大坂島之内の花街で、馴染(なじ)みの女郎に心中を持ちかけられた。若気の至り。ある晩、手に手を取って出かける途中、彼は怖くなった。逃げよう!と思うのだが、女は可悦のフンドシを握っていて......死に場所と決めた神社に到着すると、彼は「首を吊(つ)る前に最後の一服」と火打ち石を打つ......その音を聞きつけた夜番がやって来る。その隙(すき)に、男は必死で逃げた。死ななくてよかった。
 その数日後、女は別の年配の客と心中を遂げた――という話である。
 惚(ほ)れた腫(は)れた!ではない。
 この女郎には、誰でもいいから一緒に死ぬ相手が必要だった。誰でも一人で死ぬのは怖い。それにしても「一緒に死んでおくれ!」は実に身勝手な「お誘い」である。
    ×  ×  ×
「本物の右翼」西部邁(にしべすすむ)さんがなぜ、自殺したのか?
 なぜ、知人に「自殺の手助け」を求めたのか?
 いくつも、疑問が残る。
 正直に言えば(当方にとって)「社会経済学者・西部邁」は「大嫌いな存在」だった。と同時に「羨ましい存在」でもあった。
 東京大学の学生時代、暴力革命を唱え、政治犯として収監された。彼はカッコいい革命家!だった。
 それが、突如「右」に急旋回。気がついてみると「右翼教授」として、テレビ番組に颯爽(さっそう)と登場。自民党の一部から圧倒的な支持を受けるようになった。
 それは、当方にとって「裏切り」と映った。「事の善悪(正義)」より、いつも中心にいたい!という願望だらけの「俗物」に映った。
 とはいえ、彼のエネルギーは驚異的。約200冊の本を書いたのだから、尊敬しなければなるまい。
 その西部さんが「自裁死」を言い出したのは2000年ごろ。『私の死亡記事』(文藝春秋編)に「精神的な衰えが見通されたら自殺する」という文章を寄せていた。
 周囲には「病院で死に行く際の心身の苦しみを身近な人に見せるよりも【自裁死】を選ぶ」と話していた。
 だとすると、自殺の原因は「病苦」なのか?
    ×  ×  ×
 安倍内閣の時代は「右翼の天下」と分析する向きもある。そんな時代だが、西部さんは「今の右翼」とはかなり違う。
 週刊誌『AERA』によると生前、彼はこう話していた。
「米国もめちゃくちゃになっているから日本を守る気なんてない。それに、北朝鮮のような侵略性むき出しの国が核武装すると世界の迷惑だからつぶせと言うけど、最も侵略的なのは米国に決まっている。僕は日本人だけど、その圧倒的大多数はアメリカンデモクラシーの名の下にアメリカの属国民、つまりJAP.COMの社員になっている」
 西部さんは、 日本が「トランプ・アメリカの属国」になってしまっていることに絶望していた。
 これはむしろ「左翼的な見方」である。俺は、本当は左翼だった!と気づいたのか?
 その哲学的な混乱が「自裁死」の原因なのか?
    ×  ×  ×
 それどころか「自裁死」自体に疑問が残る。
 西部さんの体はロープで近くの木と結び付けられ、体の一部もベルト状のもので縛られていた。
 西部さんは手が不自由だったから、明らかに他人の「自殺幇助(ほうじょ)」が疑われる。そして、自殺を助けたとして知人が逮捕された。その知人は「西部さんの"最期の書"『保守の真髄 老酔狂で語る文明の紊乱(びんらん)』を読んでもらえれば、先生の死生観を理解してもらえる」と話すが......。「幇助」を求めるとすれば「自裁死」とは言えない。むしろ、あの女郎が無理心中の相手を求めたのと似ていないか? 西部さんは弱虫だったのではないか?
 何から何まで、西部さんは「謎の大人物」だった。
 合掌!

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