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青い空白い雲
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究極の「捨て奸」戦略で佐川さんに"夢の天下り"は?

2018年4月22日号

牧太郎の青い空白い雲/665 

「捨(す)て奸(がまり)」という言葉をご存じだろうか?
 関ヶ原の戦いで、薩摩の大将・島津義弘が展開した「戦法」のことである。
 島津軍が所属した西軍は崩壊。島津軍自体も全滅寸前だった。撤退するには「工夫」が必要。そこで義弘は兵の中から「精鋭の小部隊」を選び、銃を持たせ、その場に据え置いたという。胡座(あぐら)をかき座ったままで、追って来る徳川軍の指揮官を狙撃。その後、一斉に槍(やり)で敵軍に突撃するというのだ。
 その隙(すき)に、島津の本隊は追っ手を振り切って落ちのびる。小部隊が全滅すると、また新しい"足止め隊"を退路に残す。これを繰り返して、時間稼ぎをしているうちに本隊は逃げ切った。これが島津の「捨て奸」戦法である。
 足止め隊は生還することはない。言ってみれば、「究極のトカゲの尻尾切り」。奸、つまり「わるがしこい」戦法なのだ。
 勇猛果敢な島津勢だからこそ成功したが......。義弘の身代わりとなって、甥(おい)の島津豊久、家老の長寿院盛淳ら多くの犠牲者を出し、生きて薩摩に戻ったのはたった80人ほどだったという。
    ×  ×  ×
 バラ色の「天下り人生」を歩くハズだった佐川宣寿(のぶひさ)さんは、まさに「平成の捨て奸」である。
 昨年2月、森友騒動で財務省理財局長として国会答弁に立った佐川さんは、勇ましかった。「記録はすみやかに廃棄した」と断言した。都合の悪い質問には、ああでもない、こうでもないと"語尾"を曖昧にして、言質を与えないようにするのが官僚答弁。だが、彼は違っていた。安倍内閣のために(財務省のためにも?)「疑惑はない!」と言い切った。「おっちょこちょい」の性格なのだろう。
 ともかく佐川さんはあの時、自らの官僚人生を「"本隊・安倍内閣"を守る勇ましい答弁」に懸けた! 事実、「見事に泥をかぶった。身を挺(てい)して政権を守ったのだから、特別の天下り先を用意してもらえるだろう」。霞が関では、そんな噂(うわさ)が流れた。
 国会でああ言い切った以上、役所に残れば、あとで問題になるのは分かりきっている。だから、泥をかぶった官僚は、組織防衛のために後腐れがないように退官させる。佐川さん自身も周囲も「退官」を予想した。
 ところが、である。
 安倍首相は違っていた。「安倍政権の味方になれば、出世できると証明しろ!」。佐川さんを国税庁長官に抜擢(ばってき)?してしまった。
 実は、佐川さんは「捨て奸」でよかった。ただ「バラ色の天下り」が約束されればよかった。「部屋・車・女」――個室、専用の黒塗りの車、女性の秘書......が約束されればよかった。
 それを「おぼっちゃま」の安倍さんが「佐川答弁」を激賞し、「彼を見習え!」とばかりに省内人事の鉄則を無視して、国税庁長官に出世させた。
 その結果、佐川さんは野党やメディアの標的になってしまった。記者会見もできない。家にも帰れない。
 立場上、組織のために出世を棒に振り「トカゲの尻尾切り」と言われたとしても、時の権力は彼らに「天下り」という実利で報いた。それが、約束事だった。
「出世」を諦めた代わりに、本人には「政権を守った」という"誇り"が残る。「捨て奸」の誇りだ。官僚の世界では、これは「勲章」なのだ。だから、佐川さんは「捨て奸」を選んだ。それなのにそれなのに、安倍さんの勘違いで、佐川さんは証人喚問に追い込まれた。今後、刑事責任も問われるだろう。
 佐川さんは犠牲者なのだ。
    ×  ×  ×
 もっと悲しい「捨て奸」は、近畿財務局の職員だろう。
 悪事に手を染めるというわけではない。上からの命令通りにしただけで、自殺に追い込まれた。自殺した職員は、死んだら楽になるんじゃないか? 死んだら検察やマスコミの追及もなくなる?と思ってしまったのだろう。気の毒だ。
 時の権力者は「亡くなったのは本当に残念だが、実はわれわれが知らないところで、この人が全部やっていた」と平気で嘘(うそ)をつくだろう。
 佐川さんは自殺しなかった。証人喚問で「真相」を喋(しゃべ)らなかった。二度目の「捨て奸」? 佐川さんは、ほとぼりが冷めたら「バラ色の天下り先」が用意されるのか?
 財務省の天下りは......。人によっては(例えば、彼の4年前の先輩にあたる某氏などは)六つの役職を掛け持ち、年収5000万円以上。退職後だけで8億円ぐらい稼ぐ。佐川さんは、そんな「夢のような天下り先」を夢見ているのかもしれないが......。
 でもその時、安倍さんが、麻生さんが「権力者」であるかどうか?
「捨て奸」は悲劇の戦法なのだ。

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