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青い空白い雲
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羽生に栄誉賞? 葛西が政界進出? どちらも反対だ!

2018年3月18日号

牧太郎の青い空白い雲 /660 

「健全なる精神は健全なる身体に宿る」の名文句を残したローマ時代の風刺詩人、ユウェナリス(60~130年)には、こんなセリフもある。

「かつては政治と軍事のすべてにおいて権威の源泉だった民衆は、今では一心不乱に、専ら二つのものだけを熱心に求めるようになっている――すなわちパンとサーカスを!」
 その頃、ローマ市民は権力者から無償で与えられる「パン(=食糧)」と「サーカス(=娯楽)」で満足して「政治的盲目」になってしまっている!と、ユウェナリスは痛烈に批判した。
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 テレビ中継に固唾(かたず)をのんだ(北朝鮮の電撃参加でスッタモンダした)韓国・平昌(ピョンチャン)冬季五輪が終わった。日本勢は冬季五輪史上最多のメダルラッシュ。日本中が興奮した。感動した。その最中、幸か不幸か、日本人は「政治的な関心事」をすべて忘れた。最高の「サーカス」だから仕方がない。
 すかさず、安倍首相は羽生結弦選手、女子スピードスケート500メートルで優勝した小平奈緒選手に電話を入れ、祝福する様子を公開、テレビに映させた。まるで「自分の手柄」のように振る舞う。ちょっとイヤな感じだった。
「サーカスに興奮して国民は盲目状態」という事態に、安倍さんはご満足だったかもしれない。
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 大昔、五輪を最大限に利用した「ヒトラーの手口」を思い出した。
 1936年のベルリン五輪。ヒトラー政権が二つの緊急事態宣言を発令、報道や言論の自由を禁止し全権委任法を成立させ、独裁体制を完成させた頃の話だ。
 当初、ヒトラーは五輪に関心を示さなかったが、そのプロパガンダ効果に気づくと「五輪で勝て!第三帝国の威容を世界に見せつけろ!」が合言葉。メディアを総動員し「アーリア人の優秀性」を喧伝(けんでん)。遮二無二メダル競争に邁進(まいしん)した。その結果、獲得したメダルは金33銀26銅30の計89。アメリカの56(金24銀20銅12)をはるかに上回る圧勝だった。ドイツ国民を熱狂の渦に巻き込み、国民を思考停止状態に置く。ヒトラーの愚民化政策は見事だった。
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 正直に言おう。平昌五輪で当方も興奮した。感動した。羽生選手の神技を見て、恥ずかしながら涙ぐんでしまった。でも、総理大臣が「おのれの手柄」のような顔をして、テレビカメラの前で「おめでとう電話」をする姿を見て、冷静になった。「やり過ぎ」である。金メダルが出るたびにいちいち電話をするのか? 滑稽(こっけい)である。
 政府は「羽生選手に国民栄誉賞」という方針を固めたそうだ。ケガを乗り越え、金メダルを獲得した羽生選手は「伝説」である。でも、わざわざ内閣が「栄誉賞」をあげなくても、羽生選手は日本人の誇り。彼に感謝している。
 イチローのことを思い出した。2度にわたり受賞を断った。辞退した理由について「まだ現役。引退後に国民栄誉賞の受賞にふさわしい人物かどうか判断してほしい」と話した。
 ネットでは 「官邸は羽生選手を政治利用する気満々だ」「支持率が激落ちしたら即、国民栄誉賞」などと皮肉なメッセージが多いそうだが......。ひょっとすると、羽生選手にとっては国民栄誉賞はありがた迷惑!だったりして。
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 究極の「オリンピック政治利用」がもう一つある。
 スキージャンプの葛西紀明選手を政治家にしようという"企て"である。冬季五輪最多8度目の出場の"レジェンド男"葛西選手は悲願の金メダルに手が届かなかった。でも競技終了後、早々と現役続行で2022年北京五輪を目指す!と明言した。にもかかわらず、安倍政権寄りの夕刊紙が「政治家転身も現実味を帯びている」と報じた。本当だろうか?
 確かに橋本聖子、堀井学、荻原健司のようにウインタースポーツで活躍した選手が国政に出馬するのが、一つの流れではあるが......。「議員に挑戦してみないか?」と誘惑するのはやめてほしい。スポーツ選手を政治利用するのは「不健全なる精神」そのものだ。

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