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青い空白い雲
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「来年は明治維新150年」を利用する"悪巧み"

2017年9月10日号

牧太郎の青い空白い雲 634

 幕末から明治初期、ドラマチックに生きた人物の一人、箱館戦争の中心人物「榎本武揚」のことを書きたい。
 榎本は若くして長崎の海軍伝習所に学び、オランダに留学。帰国後、海軍副総裁になった。切れ者の幕臣である。戊辰(ぼしん)戦争が最終局を迎えた明治元年、賊軍の汚名を着せられた旧幕臣は軍艦「開陽丸」に乗って蝦夷(えぞ)地・箱館に上陸。榎本の指導の下で、独立政権を樹立した。
 明治政権は、その「独立国家」を許さず総攻撃。新選組の「鬼の副長」土方歳三(ひじかたとしぞう)が戦死するなどして、榎本軍は1年後、降伏した。
 榎本は江戸(東京)に護送され、死刑を言い渡されるはずだったが、箱館戦争の明治政府軍の大将・黒田清隆が「潔い敵将」の恩赦を申し出た。彼の外交手腕を高く評価したのだろう。
 明治5年に恩赦。榎本は浅草の菩提(ぼだい)寺「昭天寺」に親戚預かりになった。自由を取り戻した榎本の元に、かつての知り合いが集まり「江戸っ子會」が生まれた。その場所になったのが、僕の実家、東京・柳橋の料亭「深川亭」だった。
 榎本はその後、駐露特命全権公使としてロシアと樺太・千島交換条約を締結。逓信・文部・外務・農商務の各大臣を歴任し、明治政権を支えたが......。内心は「薩長」が大嫌いだった。
 柳橋で現在、ただ一つ残っている料亭「亀清楼(かめせいろう)」は伊藤博文ら薩長の政治家が贔屓(ひいき)にしたが、「深川亭」は「イナダイ(田舎代議士=薩長)」を一切、店に入れなかった。榎本に義理立てしたのか。薩長の官僚は我がもの顔で、芸者衆に「悪さ」をしていたが、 江戸っ子はそんな野暮はしなかった。
 こんな背景もあって、僕は「江戸っ子至上主義」で育った。
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 天皇陛下が「お気持ち」を明らかにされた、例のビデオメッセージは「戦後70年という大きな節目を過ぎ、2年後には、平成30年を迎えます」という言葉で始まっている。陛下が言及された「平成30年」(2018年)は、明治改元(1868年)から150年である(ということは、「箱館戦争150年」でもある)。
 この「150年」に「明治維新」という冠を付けようとする動きがある。維新に主導的な役割を果たした「薩長土肥」(鹿児島、山口、高知、佐賀の4県)である。共同で観光キャンペーンを行っているし、18年のNHK大河ドラマも薩摩の西郷隆盛をテーマに、林真理子さん原作「西郷(せご)どん」に決まった。
 安倍晋三首相は長州(山口県)の出身。政府は16年10月、内閣官房に「『明治150年』関連施策推進室」を設置し(1)明治以降の歩みを次世代に遺す施策(2)明治の精神に学び、更に飛躍する国に向けた施策を行うと発表している。
「明治維新」に学べ!と言わんばかりである。
    ×  ×  ×
 薩長嫌いだから、というわけではないが、「明治維新150年」という表現には若干無理がある。
 明治維新は、一般的には「慶応3(1867)年の大政奉還、王政復古の大号令から明治10(1877)年の西南戦争あたりまで」である。 何をもって「150年」と言うかは難しい。実は「明治維新から100年」という理由で、1968年10月、時の政府は日本武道館で記念式典を主催した。昭和天皇、香淳皇后や佐藤栄作首相(山口県出身)ら約9000人が出席。佐藤首相が万歳三唱した。
 昨今、内閣の支持率が下がっている安倍さんだが、その本音は想像できる。「明治維新150年」を機に、憲法を改正して万歳をする! ではないか?
    ×  ×  ×
 だいたい、「明治維新」と呼ばれる一連の出来事は、主に長州の歴史観で語られている。慶応4年の「鳥羽・伏見の戦い」以来、「勝てば官軍、負ければ賊軍」で新政府軍のメンバーだけがヒーローだった。維新の歴史はすべて、「薩長土肥」の都合に良いことばかりである。
 見方を変えれば、人物像は変わる。例えば天才の吉田松陰も、長州過激派が行ったテロを扇動した人物!と見ることもできる。「天誅(てんちゅう)!」とばかりにテロを繰り広げたのが、薩長ではないか。
 ともかく、"正義の明治維新"をまたぞろ喧伝(けんでん)して「明治憲法」を評価しようとする「悪巧み」が見え隠れする。
 薩長嫌いの当方だから言うのだが、もともと「明治維新」という言葉は昭和に入ってから。それまでは「御一新」だった。だから「明治維新150年」という表現には、無理があるのだ。

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