コラム詳細

青い空白い雲
loading...

大親分が"微罪"で逮捕! ヤクザに「人権」はないの?

2017年8月13日号

牧太郎の青い空白い雲 631

 今回は「ヤクザの不運」を書きたい。
 概(おおむ)ね半世紀前、日本には「ヤクザ」を容認する気風が残っていた。任侠(にんきょう)をテーマにした浪曲が一定のファンを持っていた頃のことだ。
 例えば、東京・本所にある中高一貫教育のわが母校(誤解されるとまずいので、今回は匿名)の体育教師は、「国鉄総武線沿線の名だたる親分の倅(せがれ)はわが校が面倒を見ている」と自慢していた。当時、高校3年生の僕の2年下に、住吉連合四代目・碩上(せきがみ)義光組長の倅がいた。
 総武線沿線の土地土地にそれぞれ「ヤクザの縄張り」があった。本所から向島にかけては「関根組」の縄張りだったような気がする。関根賢組長は群馬県生まれ。家は家禄1200石の武家。父親は教育者だったが、どうしたことかヤクザの道を選ぶ。本所・向島区あたりの博徒を束ね、「関根組」の看板を掲げたのが昭和11(1936)年。第二次大戦で、軍部から"国家奉仕"の依頼があって、右翼の児玉誉士夫氏らと共に鉄・銅資源の収集に加わり、国家に尽力したという。
 当時、向島には「赤線」があった。用心棒はカネになった。「戦後、配下1万人という時代もあったんだ」と例の"ヤクザに詳しい体育教師"から聞かされた。
 関根組長は自民党の大物とも親しく、60年安保では児玉氏の指導で関根組長を含めて、首都圏の任侠右翼は左翼陣営と渡り合っている。ヤクザは「時の政権」の用心棒でもあった。
 治安維持に貢献があった、という理由で、日本最大暴力団となる神戸の山口組の「中興の祖」田岡一雄三代目組長は、水上警察の一日署長を務めた。
 昭和の時代、ヤクザはそれなりの「役に立つ存在」だった。
    ×  ×  ×
 この夏、珍しい出来事があった。
「関東関根組二代目継承盃儀式」が行われたのだ(6月1日、茨城県土浦市)。関根賢組長が亡くなってから40年目の二代目襲名である。あまりに遅すぎる。これには複雑な事情があったようだが、あの名門「関根組」復活! 一本どっこで、広域暴力団とは距離を置いている。
 もう一つのビッグニュースは、4月30日、神戸山口組から「任侠団体山口組」(織田絆誠代表、約60団体加盟)と名乗る組織が分離、独立したことだ。もともと、指定暴力団「六代目山口組」が2015年夏に分裂。一部メンバーが神戸山口組を結成。今回は、その神戸山口組がさらに分裂。「任侠団体山口組」が誕生した。
 分裂する原因は、どうやら資金不足にあるらしい。高い上納金が払えないので山口組は分裂した。ヤクザは構造不況産業なのだ。
    ×  ×  ×
 もう一つのビッグニュースはその「神戸山口組」の井上邦雄組長が兵庫県警、京都府警に相次いで逮捕された事件だ。とくに、全国のヤクザを驚かせたのは「逮捕容疑」。
 その一つは、〈知人女性と共謀し、神戸市灘区の販売店で、井上容疑者が使用する事実を隠して知人女性名義で携帯電話を機種変更し、1台を詐取した(神戸地検は6月に処分保留)〉。
 微罪である。普通なら逮捕なんてあり得ない。
 多分、「京都の乱」と言われる騒動に絡んだ「別件逮捕」だった!と想像できるが、 大親分がこんなチッポケな「携帯電話詐欺」で捕まるなんて......全国のヤクザは愕然(がくぜん)とした。
    ×  ×  ×
 今年5月19日付の『毎日新聞』九州版に〈通信傍受 証拠採用の経緯で評価が割れる〉という記事が載った。
〈福岡地裁で係属中の特定危険指定暴力団「工藤会」(北九州市)系組幹部の公判で、福岡県警が通信傍受した携帯電話の通話記録が証拠採用された経緯について専門家の評価が割れている。通話記録は別の事件捜査を目的に傍受されており、一部の専門家は証拠採用自体を疑問視しているためだ。「共謀罪」の成立要件を絞った「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案を巡って通信傍受の範囲拡大が懸念される中、今後の通信傍受の運用について議論を呼びそうだ〉
 簡単に言えば、警察が別件で「傍受(盗聴)」したものでも「証拠」になる。これに学者センセイが異議を唱えている、という記事である。暴力団であれば、どんなやり方でも逮捕できる!なんてむちゃくちゃではないか?
 むろん、ヤクザの味方をするつもりはないが、ヤクザには「人権」がないのか? 考えてみるべきではないか。

 

政治・社会

くらし・健康

国際

スポーツ・芸能

対談

  • 艶もたけなわ

    新藤晴一 ミュージシャン

    2017年9月17日号

    阿木燿子の艶もたけなわ 169   ロックバンド「ポルノグラフィティ」は1999年に...

コラム