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サンデー時評
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安倍3選は本当にあるのか? 最近そう感じる三つの理由

2017年6月 4日号

倉重篤郎のサンデー時評 108 

 ある首相経験者から聞いた話から始めたい。
 北方領土問題について、天皇陛下からご意見の表明があったという。その当時、一つの解決案として政府内で検討されていた「面積等分方式」についてであった。
 陛下は同方式に反対され、大略、以下のように述べられた。
「日本は戦後、国境はすべて海の上にあった。そのことに意味があった。北方領土の面積を2等分にすると、択捉島の上に国境線が引かれ、日本は戦後初めて陸上での国境線を持つことになる。そうなると、何か起きると、非常に心配だ。海の上に国境があるということが、今日までの日本の平和を作ってきたと私は思っている」
「島民は毎年、年を取っていかれるし、交渉も年を経るほど日本にとって不利になるのではないか。だから、ある程度のところでまとめないといけないと思う」
「面積等分方式」は、ロシアが2008年に中国との領土紛争をこの方式で解決後、日本政府内部でも北方領土問題への適用が取りざたされた面積折半案だ。歯舞、色丹、国後、択捉の4島の面積を半分に割れば、前3島と最大の島である択捉島の一部までが日本領土となる計算で、4島返還がかなわなくても、日本の国益に合い、国民の理解も得やすいとされた。
 結果的には日の目を見ることもなく消え去った案だが、この秘話は、陛下の過去現在未来を通観する卓越した英明さを感じさせる。面積等分といえば、損得論や、過去の交渉との整合性を云々(うんぬん)する議論などさまざまあろうが、それから一段上に立ち、隣国との平和維持という観点から骨太に俯瞰(ふかん)している。島民の立場になって、一定の妥協を示唆したところも、外交の要所を突いている、と思う。
 もっとも、この手の意思表示はめったにされるものではない。天皇の政治的権能を否定した憲法を誰よりも大切にされておられるし、帝王教育の中で抑止と自制について多く学ばれてきたと思うからだ。
 ただ、その英明さが内々のお気持ちに留(とど)まることもなく、表に出て爆発したのが今回の退位問題ではないか、と受け止めている。

 ◇天皇家と安倍官邸のぬぐいがたい齟齬 そして、重大なスキャンダル

 昨年8月のビデオメッセージは、陛下が象徴天皇としての役割をどう考え抜かれておられるか、それをいかに全身全霊で果たそうとされているか、がひしひしと伝わってくるものであった。
 一連の報道で、象徴天皇制に対する安倍官邸の考え方と陛下の思いに埋めがたい隔たりがあったことが明らかにされたが、ビデオメッセージの公開が世論をして陛下の思いに軍配を上げさせ、その結果、国会で陛下の退位を可能にする法改正が行われるところまで来たのはご承知のとおりである。
 ただ、陛下が望んだとされる退位の恒久制度化については、安倍官邸の反対もあり実現されない。天皇家が最も関心を抱いていた皇位継承問題についてもほとんど議論されないまま先送りされつつある。つまり、安倍官邸と天皇家の間にはなお距離がある。『毎日新聞』の検証報道で陛下のご学友の一人が「安倍晋三首相との戦争です」(4月30日付朝刊)と語っていたのがその一面を物語る。
 ロイヤルファミリーと政権がこれだけギクシャクしたことはなかったのではないか。もちろん、戦後民主憲法下のことである。政権の安定度は国会議員の数と国民の支持率で測られるべきだが、保守を標榜(ひょうぼう)し、さらなる長期政権を狙うには重しとバランスを欠く印象が否めない。
 二つ目に、5年目を迎え、政権の慢心が目立つ。前号で志位和夫・日本共産党委員長も語っていたが、特に国会答弁でそれが露骨に出てくる。民進党の批判には直接答えず、民主党政権時代のマイナス面ばかりをあげつらう。野次(やじ)が出ればそれを使って時間つぶしをする。野党第1党に対する敬意もなければ、国会が国権の最高機関だという配意も感じられない。
 2020年までに改憲を成し遂げたい、とする唐突な表明も、自己本位のレガシー作りに見える。これまで積み上げてきた党内論議、国会審議もほぼ黙殺した形だ。それに表向き抗し切れない与党も与党だが、不満、不平もまた澱(おり)のようにたまっている。この手のものはいったん噴き出すと止まらない。あっという間に政権の屋台骨を揺るがすことにもなりかねない。
 驕(おご)れるものは久しからず。この古今東西、永遠の真理則にこの政権は抵触しつつある。
 三つ目に、スキャンダルに対するこの政権の脆(もろ)さである。森友、加計学園問題での安倍首相夫妻の関与はなお国会で追及されている。脆さの一は、安倍氏本人が自らが関与した場合の引責辞任を何度も国会の場で明言していることだ。野党やメディアからすればこれだけわかりやすい標的はない。
 脆さの二は、両疑惑はいずれもお役所(森友なら財務省、加計なら内閣府・文科省)がそのすべての証拠を握っていることである。政権の役所に対するグリップがこれまで通り強力に働けば致命的なファクトは出てこないはずであったが、どうやらそうでない状況になりつつある。安倍官邸の霞が関に対する人事権をかさに着た強権支配が反発を呼び始めているのかもしれない。お友達優遇が立証された場合には、韓国朴槿恵(パク・クネ)政権と似たような構図にもなる。
 自民党内を歩くと、安倍3選は間違いなし、との声が圧倒的だが、私は以上三つの理由から疑問を持つ。安倍氏に丸々9年の首相職を預けるということが簡単に決まっていいわけもない。安倍氏が切った「20年改憲」という政局カード、加計学園疑惑で出てきた内部文書が今後どういう展開を見せるか。後半国会が重要になってきた。

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