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青い空白い雲
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「記者のトイレは別室で!」論争と"メディア不信"

2017年5月21日号

牧太郎の青い空白い雲 619 

 昨今の北朝鮮クライシス報道は「嘘(うそ)八百」である。
 日本人は「有事の嘘」に不慣れなので、情報操作されている!と知りつつ、マスコミの報道に一喜一憂する。
 アメリカのシリア攻撃の2日後(4月8日)、「米太平洋軍司令官のハリス海軍大将が、原子力空母カール・ビンソンを中心とする『第1空母打撃群』を北上させて、北朝鮮近海を航行するように命じた!」などと報じられた。 
 中東で戦争が始まったのに、なんで米空母が北東アジアに向かうの? ヘンじゃないか? 
 前号で「戦争ビジネス国家は"カネにならない空爆"はしない!」と書いた。戦争ビジネス国家のアメリカは、よほどのことがない限り、北朝鮮を空爆しない!と思っている。そんな楽観主義者?の当方から見れば、これも「嘘八百の類い」としか思えないのだが......なんのことはない。当時、カール・ビンソンは約5600キロも離れたインド洋あたりを航行中だった。(かなり後になって、日本海に向かったようだが)ともかく「有事の情報」はいい加減だ。
    ×  ×  ×
「いい加減」の証拠に、昔から新聞・テレビは平気で有名人を"殺す"。
 1908年9月、『讀賣新聞』は作詞家・野口雨情の死亡記事を掲載した。これを読んだ石川啄木は、小樽の新聞社で同僚だったこともあって「悲しき思出(野口雨情君の北海道時代)」という回想文を書いたが、野口雨情はピンピンしていた。
 イギリスの哲学者、バートランド・ラッセル は北京大学の交換教授だった1921年3月、肺炎にかかり一時危篤状態になった。日本の新聞は死亡記事を載せたが持ち直した。この年の7月、来日した時、新聞記者のインタビューに「死人に口なし!」と皮肉った。
 戦争が始まると「死亡説」が次々に横行する。レーニンは何度もガセネタで"殺された"。今回も金正恩(キム・ジョンウン)の亡命説が流れたりした。「奴(やつ)は死んだも同然!」と言うのだが、ともかく、この1カ月、メディアに不信感が充満した。
    ×  ×  ×
 嘘つきトランプは「メディアこそ嘘つき!」を連発する。
 当選直後、ホワイトハウスのウエストウイングにある記者会見室を隣接する行政府ビルに移す!と言い出した。大統領執務室に嘘つき記者を近づけるな!である。
 ホワイトハウス記者会は「記者団の監視の目から大統領や顧問を遠ざけるいかなる行為にも強く反対する」と反発、大騒ぎになった。
 結局、そのままになったが、この一事を取っても、権力側とメディアの相互不信は根強い。
 日本でも、同じようなことが起こった。「記者のトイレは別室にしろ!」論争である。
 2020年に予定される「横浜市新市庁舎整備」を巡り、米軍基地対策などを担う市政策局が、「一般と記者用のトイレを分けるべきだ」と主張していたのだ。記者室が、市政策局と同じ階にあり、トイレで出入り業者などが交わした会話が取材の端緒になる「おそれ」がある!というのだ。
 そんなバカな!と記者たちは怒ったようだが......ここにも、権力側とメディアの相互不信が見え隠れする。
    ×  ×  ×
 メディアに対する不信感は「マスゴミ」という言葉に象徴される。
 1966年の大映映画「野良犬」で、田宮二郎演じる主人公・鴨居大介が「お前らマスコミやないわい、マスゴミじゃ!」と激怒する。多分、「マスゴミ」という言葉はこの頃、登場したのだろう。
「報道の自由」や「知る権利」を盾に、他人のプライバシーを蹂躙(じゅうりん)する。記者クラブを作り、フリー・ジャーナリストを排除して情報を独占する。日常的な偏向報道。「報道しない自由」の下で、自身に不都合なことは報道しなかったり......それどころか、最近は、権力側の言い分を「嘘」と知りつつ、垂れ流すケースもある。これでは「マスゴミ」と言われても仕方ない。
 米中戦争勃発の可能性で揺れたGW。「マスゴミ」を信じていいのか、悪いのか? 正直、ただ「なすすべのない時間」を過ごした。
 人々の不信感が頂点に向かう時、権力者は暴走する。それが怖いのだ。

 

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