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サンデー時評
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安倍政権に「森友」のツケ重し 誰に論功? 財務官僚にも借り?

2017年4月23日号

倉重篤郎のサンデー時評 107 

 かつて「ほめ殺し事件」という政界一大スキャンダルがあった。
 中曽根康弘政権末期のことだ。ポスト中曽根をめぐり、「安竹宮」こと、安倍晋太郎、竹下登、宮沢喜一3氏が激しく争った次期総裁選びのさなかに起きた事件だった。
 高松市の日本皇民党という右翼団体が、竹下氏に対して「ほめ殺し」という嫌がらせ街頭宣伝活動を仕掛けた。曰(いわ)く、「竹下さんは日本一の政治家。この人ほど金集めのうまい政治家はいない。ぜひ竹下さんを総理総裁にいたしましょう」と大音声(だいおんじょう)でがなりたて永田町周辺を練り歩いた。
 竹下陣営はその執拗(しつよう)さに頭を抱えた。褒めているようで実はけなしている。ただ、あからさまな誹謗(ひぼう)中傷ではないので取り締まりもままならない。中曽根氏側からは、一刻も早くやめさせろ、後継指名できないぞ、とせっつかれる。
 竹下陣営は懸命に封じ込めようとしたが、相手もさるもの、なかなか手打ちに応じない。結局どうしたか。竹下後見人の政界実力者・金丸信氏が、懇意にしていた東京佐川急便社長を介し、暴力団稲川会会長に頼み込み、同会長がさらに京都の暴力団組長を通じて皇民党側に話をつけ、ようやく街宣を止めることができたのであった。
 しかも、一つ条件をつけられた。竹下氏が田中角栄元首相の自宅まで行き頭を下げること、それが確認できればほめ殺しを中止する、というものだった。竹下氏が田中氏の恩義に背きけしからん、というのが皇民党側の主張だった。
 もちろん、これらのことは当時わかっていたわけではない。我々が知っていたのは、ほめ殺しという街宣があったこと、いつの間にかそれがなくなったこと、そして、竹下氏が田中邸門前までいきなり出向いたことだけであった。
 その背景に、前述のような驚くべき事情があったことが判明したのは、ほめ殺しの数年後、佐川急便事件が摘発され、東京地検特捜部の強制捜査によって事件の全容が解明されたからであった。
 森友問題を見るにつけ、なぜかこの30年前の事件が思い起こされる。私にとって鮮烈な印象を受けた事件だった。京都まで赴き、かの組長に面談を求め、緊張に震えながら取材したせいだけではない。政治権力上最高位のポストを獲得、ないしは維持するということはどういうことなのか。きれいごとだけではすまない。場合によっては暴力団の力も借りる。そのリアリズム、ダイナミズムを垣間見ることのできた事例だった。

 ◇「森友問題」収束に向け、権力内部で行われる忠誠心競争

 まさに、事実は小説より奇なり、であった。そういえば、森友学園の籠池泰典氏も証人喚問で同じセリフを発していた。籠池氏が高松市出身であること、籠池氏喚問にゴーサインを出したのが竹下登氏の弟・竹下亘自民党国対委員長であったこともまた因縁めいたものを感じさせる。
 ただ、より本質的な類似点は、権力周辺の忠誠心競争である。
 ほめ殺し事件では、法廷審理の段階で、ほめ殺しをやめさせるために竹下氏周辺の政治家がいかに皇民党側に働きかけたか、その生々しい実態が検察側調書の中から明らかにされた。ある者は金品をちらつかせ、またある者は義理人情で迫り、またある者は人を介し、ありとあらゆる手段を弄(ろう)して封じ込めを図った。新しくできる政権、権力者に対し、その窮地脱出に協力することで貸しを作り、人事面での対価(閣僚、党幹部ポスト)を受けんとする競争だった。
 結局どれも効果なく、最後は暴力団の力を借りたという顛末(てんまつ)は述べた通りだが、森友問題でも似たようなことが起き始めている。疑惑封じ込めにどれだけ貢献できるか、そのロイヤルティー発揮合戦が政権与党内で展開されている。
 例えば、ある者は記者会見し、証人喚問での偽証の疑い濃厚と、籠池氏を追い込もうとする。またある者は、テレビで安倍氏側をこれみよがしに徹底擁護する。そのへんはさすがに政権与党である。籠池氏を一日も早く刑事訴追し、籠池悪玉論でことを収束させる処理を加速させている。さる筋は私に「4月いっぱいでこの問題は終わり」とささやいてくれた。
 これもまた、国会終了後しかるべき時期に安倍政権が断行するであろう内閣改造・党人事をにらんだ動きとみられる。自民党側の思惑は安倍氏に貸しを作ること。安倍氏からすれば、借りができることになる。処理が遅れれば遅れるほどツケはたまり、負担はかさむ。
 それだけではない。安倍氏は、財務省にも借りができた、というのが私の見立てだ。最近、安倍氏が財務官僚の国会答弁を褒めた、という。もともと、財政健全化路線の財務省と、成長戦略を優先したい安倍氏とは水と油、政策的には敵対関係にあるといってもいい。2度の消費増税先送りが両者間のわだかまりにもなっていた。
 それが、森友問題では水も漏らさぬ連携ぶりである。財務官僚曰く、国有地払い下げはすべて適正に処理されています、ただ、資料は全部内規に従って廃棄しました云々(うんぬん)......。最も事の真相を知る役所が、組織を挙げ政権防衛を買って出ている。財務省OBからは、ここまでないがしろにされながら、その服従ぶりはいかがなものか、という声が漏れるほどである。
 省としての組織防衛もあるだろう。だが、森友問題の真相カードを握ることで政権に対し優位に立たんとする戦略とも受け取れる。関係した財務官僚の1人でも、払い下げで安倍夫人の関与がありました、忖度(そんたく)しました、と言ったとたん政権が吹っ飛ぶからである。
 かくして、安倍氏は自民党と財務省に借りを作った。森友問題はいずれ収束するかもしれない。だが、そのツケ払いは問題が尾を引けば引くほど政権の重荷となる。

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