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サンデー時評
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藪を突いたら大蛇が出た 「森友問題」が政権をのみ込む

2017年4月 9日号

倉重篤郎のサンデー時評 106

 藪(やぶ)を突(つつ)いて蛇が出る、という言葉がある。先の森友学園・籠池泰典理事長の証人喚問を聞いた私の率直な感想である。
 籠池氏は実に冷静かつ沈着だった。クレバーと言ってもいい。その証言は、法廷用語で言えば、具体的かつ詳細であった。自らが刑事訴追される可能性のある部分については、補佐人の弁護士と相談したうえで証言を拒み、的外れの質問には逆襲、「事実は小説よりも奇なり」との余裕も見せた。
 えっ?と思わせる証言が三つ。
 一つは、いわゆる「100万円寄付」問題の経過であった。
 それによると、寄付があったのは2015年9月5日。安倍昭恵夫人が幼稚園で講演した日のことであった。講演前に園長室で籠池氏と、昭恵夫人、夫人付秘書が面談、その際に昭恵夫人が同行の秘書を人払いし、封筒入りの100万円を手渡した。その際以下のやりとりをした、というのだ。
 昭恵夫人「一人でさせて申し訳ありません。どうぞ」
 籠池氏「いいんでしょうか」
 昭恵夫人「安倍晋三からです」
 籠池氏はその後、封筒を職員室に持ち運び、副園長に渡し、金額を確認。その日が土曜日だったので金庫に入れ、月曜になって職員が郵便局で学園の口座に入金した。その際払込取扱票の依頼人欄に「安倍晋三」と書いたが、会計士と相談の上、(学)森友学園に修正したという。
 一方、昭恵夫人には講演を終えて帰る際、「感謝」と書いた講演料10万円入りの封筒をお菓子の袋に入れて渡した。その5、6分後に昭恵夫人から電話で黙っていてほしい、という趣旨の連絡が来た。
 証言としては具体的かつ詳細ではある。記憶に残っている理由についても「(首相からの寄付で)大変名誉な話なので鮮明に覚えている」と説明、なぜこの件を今になって公にしたのか、と聞かれ、「学校認可の申請を取り消し、何とか建物だけは残したい。建設費の中に(安倍首相からの)100万円も入っていることを言いたかった」との動機も明らかにした。
 二つ目は、なぜ国有地が格安に払い下げられたか、という謎解明に役立ちそうな新証言だ。
 それによると、15年10月、籠池氏は昭恵夫人に対し近畿財務局と交わした国有地の「買い受け特約期間」について10年とされた期間をもっと延長できないか、と照会した。この要請に対して、昭恵夫人は秘書(経産省出向、幼稚園にも同行)を通じ、財務省担当部局に照会した結果〈その希望には沿えない〉という回答をファクスで送ってきた、というのだ。
 この証言は重要だ。籠池氏が首相夫人であり、当時まだ小学校名誉校長の肩書をつけていた昭恵夫人に対し、買い受け期間の延長という一種の請託をした。それに対して、夫人側は財務省側にその可否を問い合わせ、秘書がその回答を籠池氏にファクスで送付した、ということになる。首相夫人に職務権限があるとは思えないが、その立場を利用した行政当局への照会があり、そのことが行政側に何らかの圧力か忖度(そんたく)を促した可能性は否定できまい。事実籠池氏からすると、ある時点から行政側の対応が急速にスピードアップし、籠池氏もびっくりするような8億円以上も値引くという格安払い下げになったわけだ。「神風が吹いた」と籠池氏は表現している。
 籠池氏がもう一つ明らかにしたのは、学校認可における松井一郎大阪府知事の介在だ。籠池氏は懇意の政治家を介して松井氏に働きかけたと明言、だが、最近になり松井氏に手のひらを返すようにはしごをはずされた、と証言した。
「瑞穂の國記念小學院」という名称でも新証言があった。昭恵夫人と一緒に建設予定地を視察した時、夫人から「いい田んぼができそうね」と言われ、その言葉に触発されて名称を決めた、というのだ。
 私もこれまで多くの証人喚問を見てきたが、真相解明にこれだけ多くの材料を提供したケースはない。
 もちろん、籠池証言が正しかったら、との条件付きである。

 ◇共謀罪審議への影響 維新の会への痛手 安倍首相の脳裏には「解散」も?

 それにしても政権は予想外の打撃を受けた感がある。
 100万円問題については、密室の2人だけのやりとりだけに、どっちもどっち、真相は不明としたかっただろうが、そうはいかなくなった。状況証拠で確認すべきことができてしまった。安倍氏側が言うように秘書が昭恵夫人と常に一緒におり籠池氏と2人だけの場面はなかったのか。それとも籠池氏が言うように人払いの瞬間があったのかどうか。同行した秘書2人からの聴取が必要となる。100万円受領の周辺にいた幼稚園の他の職員たちにも質(ただ)せばいい。皮肉なことに昭恵夫人の国会招致という最も避けたかった事態を自ら招きつつある感がある。
 政局運営面でも想定外の傷を負った。この一日ですべて終わらせようとしたのに逆に問題を引きずってしまった。森友問題は後半国会のお荷物として、いわゆる「共謀罪」その他の重要法案の審議にも影響を与えるだろう。松井氏への疑惑は、彼をトップにいただく維新の会にとって痛手であるだけでなく、維新を準与党化扱いすることで有利に政局運営を運ぼうとしている安倍政権にとっても歓迎すべきことではない。安倍氏の脳裏には衆院「解散」の二文字がちらついているかもしれない。だが、衆参両院で与党が3分の2の議席を保有する現行体制を崩すリスクを冒せないこともまた本人が最も知るところでもある。
 藪から出てきた蛇は小さな蛇ではなかった。虚言癖の男の証言の矛盾を突いて議院証言法違反(偽証罪)で告発せむとした安倍氏側の筋書きは不発に終わった。下手を打つと、大蛇になって政権をのみ込む可能性まで出てきた。

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