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青い空白い雲
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「豊作貧乏」になったヤマトはアマゾンに殺される!?

2017年3月26日号

牧太郎の青い空白い雲 612 

 ヤマト運輸は便利だ。
 身体が不自由なので、旅行に行くときは、必ず宅急便の厄介になる。衣類と若干の書類を詰めて、前日夜、東京の事務所から送れば、旅行当日の夕方にはホテルの部屋に着いている。ヤマトがないと身障者の一人旅は無理だ。
 その相棒のようなヤマトがピンチ!とドライバーから聞いた。残業代が未払い!という異常事態がアチコチで起こっているらしい。
 そういえば、最近NHKの昼のニュースはトップで「ヤマト運輸を傘下に持つヤマトホールディングスは、全国の約7万6000人を対象に未払いの残業代がないか、労働実態の調査を始めた」と報じていた。
「そんなに忙しいのに、ヤマトは儲(もう)かっていないの?」
 とドライバーに尋ねると、彼らは「要するに豊作貧乏なんです」と答える。
    ×  ×  ×
 宅配便業界が扱う荷数は2015年度に37億個を超えた。この10年間で9億個近く増えている。とくに、ヤマトの荷数は爆発的な勢いで増え19億個に迫っている。
「豊作」の原因は何か?
 その大きな要因は、13年から佐川急便に代わってネット通販のアマゾンの配達を始めたからである。
 アマゾンは怪物である。15年の世界全体での年間売り上げは約10兆円。日本での売上高は、およそ1兆円。ネット通販2位のヨドバシカメラが約790億円というから10倍以上である。
 ヤマトの取扱数も、ここ3年で約2億4000万件(約16・4%)も伸びた。ヤマトは間違いなく「豊作」である。
 もともと、アマゾンの配送は佐川急便が受け持っていた。ところが、運賃の値上げ交渉が決裂し、撤退した。入れ替わりにヤマトが、「佐川が撤退するような格安運賃」でも参入できたのは、佐川が下請け業者に代金を払って届けてもらっているのに対し、ヤマトはほぼ自社ドライバーで届けるからだ。配達効率を上げれば、薄利でも利益が出る!という判断だったのだろう。
 それが誤算だった。次から次へとアマゾンの「格安運賃」の荷物がやって来る。現場はパンク寸前?
 取扱数の増加で、恒常的な人手不足。長時間労働を強いられる。親しいドライバーの一人が言う。
「携帯端末でドライバーの勤務時間を管理しているのですが、実際には端末に"終業"と入力した後も伝票整理をしてしまう」
 ドライバーが次々に辞めていく。配送件数に応じた「業務インセンティブ」があるが、それは1個20円ほど。余分に50個運んでも約1000円。彼も「辞めたい」と言う。
    ×  ×  ×
「送料無料が悪!」と気づいた。
 野村総研が昨年発表した「買い物に関するアンケート調査」によると「ネットショップを選ぶ際の必須条件」は、「送料が安いこと」が約70%。「価格の安さ」を上回り「ダントツ」だった。今や「送料無料」はネット販売の常識なのだ。
 先鞭(せんべん)をつけたのはアマゾンだろう。
 大体「送料無料」商法が成り立つのか? 不思議である。
 友人は年間3900円を支払ってプライム会員になった。会員になれば、いくら注文しても大部分の商品の配送料が無料になる。 数回注文すれば、会費の元が取れる「出血サービス」。しかし、そこには、アマゾンの思惑が隠されている。流通を独占したいのだ。
 もし、流通がアマゾン1社に握られたとしたら......。無料配送はもちろん有料になるだろう。流通を制覇した後の「美味(おい)しい果実」を狙っているのだ。
 いまでも安い労働力を使っているのに、さらにコストダウンを推し進め、流通独占を目指す。そのため、ヤマトを徹底的に利用している構図だ。
    ×  ×  ×
 虐(いじ)められているのは非正規社員である。今さら言っても仕方ないが、日本の労働人口の4割以上が非正規雇用である。その「派遣の生活」が一生続く。家庭が持てない、結婚ができない。結婚できても、子供を産んで家を買うことはできない。人口減少がますます進む。この深刻な現実が、宅配便業界に象徴的に表れている。
 アマゾンは、その非正規社員さえ切り捨てるかもしれない。彼らに代わり、小型無人機ドローンで配送しようと考えているからだ。現実に、受注からお届けまでの時間を短縮するため、アマゾンの神奈川県小田原市内の倉庫ではすでに、Kiva(キバ)というロボットが走り回っているという。
 そればかりではない。
 アマゾンはロクに税金を払わないと報じられている。日本の顧客との商品契約をアメリカの関連会社と結ぶ形で、売り上げも米側が得たとして節税しているらしい(国税局は、実際の本社機能の一部が日本にあるとして、数百億円の所得を日本で申告すべき!と主張していたようだが)。
 アマゾンの野望で、日本という国の形が変わるような気がする?

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