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青い空白い雲
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シベリア鉄道を延ばす間に「北海道の鉄道」はなくなる?

2016年12月25日号

牧太郎の青い空白い雲 600 

 12月15日は安倍晋三首相の地元・山口県長門市で日露首脳会談。この号がお手元に届く頃は、「北方領土返還」の文字が(良くも悪くも?)トップニュースになるだろう。とはいえ、安倍さんが目指す「返還への道」には"暗雲"が垂れこめている......だから、あえて「シベリア鉄道を北海道に延ばす夢のような計画」から始めよう。
 ロシア側の提案を簡単に説明すると......まずは、シベリアとサハリンの間に580キロの新路線を敷き、ロシア本土とサハリンを結ぶ。スターリン時代、軍事目的で工事が秘密裏に行われた、と噂(うわさ)されるルート。タタール海峡(間宮海峡)には橋かトンネルを造る。橋なら6キロで開通まで7年半。トンネルなら12・6キロで9年半かかる。その後、サハリンと北海道を結ぶ。完成すれば、低コストの物流路線になるから、安倍さん!カネを出せ!という話だ。
「急に出てきた話で......」と北海道は困惑しているが、これは「急に出た話」ではないのだ。
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 5年前の話だ。2011年末、プーチン大統領(当時は首相)が年末恒例の「国民との対話」というテレビ番組で「サハリン島とロシア本土を鉄橋で結ぶ。その後、サハリン島と日本をトンネルで結ぶ。日本側とこの件について討議している」と話した。
 この時、日本の外交筋は「こんな話、初耳だ」と否定してみせた。が、小泉純一郎内閣で総理秘書官を務めた飯島勲さんはその後、自らの著書で「この計画を進めて日本の経済を変えたい」と書いている。プーチン―小泉の間で何らかの話し合いが行われたはずと見ていい。
それがすっかり忘れられた頃に、ロシアは閣僚級の貿易経済政府間委員会で、「他の経済協力の実現にも貢献する中核プラン」として持ち出してきた。
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 シベリア鉄道の話がなぜ、突然持ち出されたのか?
 それを解説するには、日露首脳会談の「危うさ」に触れる必要がある。今回、両国の「狙い」はまるで違う。安倍さんの狙いは「領土」、ロシアは「カネ(経済協力)」である。ありていに言えば、「領土返還」をチラつかせて"お坊ちゃん外交"の安倍さんから経済協力を獲得するのがプーチン流。
 北方領土交渉のロシア側の窓口であるウリュカエフ経済発展相は「返還ありき」とお世辞を言った。安倍さんは彼の言葉で舞い上がり、地元・山口県で平和条約を締結できると思い込んだ。ところが、である。その経済発展相が収賄容疑で拘束された。この疑惑事件は「経済優先派」と「保守強硬派」の政争と解説されるが、ともかく、プーチン氏はウリュカエフ氏を解任する大統領令に署名した。
 1956年の日ソ共同宣言で、歯舞群島と色丹島の2島をソ連が引き渡す!との約束が結ばれた、と日本は信じた。この約束を実現するフリをしていた経済発展相が交渉の場から姿を消した。安倍政権にとって"暗雲"である。
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 プーチン氏はもともと返すつもりはなかったのだろう。
 2島が日本のものになったら、その周辺のEEZ(排他的経済水域)も日本のものになる。そうなれば、日米安保条約に基づいて米軍が展開する可能性すらある。そんな道をロシアが選ぶだろうか?
 多分、プーチン氏は「軍部が反対するからもう少し時間をくれ!」と言い訳をするだろう。日露交渉は失敗だった。これを隠すために、ロシアはシベリア鉄道を北海道に延ばす「夢の計画」を用意した。
 日本のカネで、ロシア本土とサハリンを結ぶ鉄道ができれば、プーチンはしてやったり!である。
 でも、待ってくれ!
 JR北海道の全路線の半分、10路線13区間の計約1200キロが「維持困難」の状態だ。宗谷線の名寄~稚内間まで廃止の対象だ。ロシアが頑張って(?)日本政府がカネを出しても、シベリア鉄道が北海道まで延伸しても、この頃、上陸地点の北海道は、線路そのものがなくなっているかもしれない。

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