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青い空白い雲
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日露首脳が「長門市」で会談するなんて子供じみている

2016年12月18日号

牧太郎の青い空白い雲 599

 12月15日、日露首脳会談は山口県長門市で行われる。
 なぜ「山口県」なのか? なぜ「長門市」なのか?
 首相の安倍さんに代わって解説しよう。長門市通(かよい)の日本海に面した大越の浜に「露艦戦士の墓碑」がある。
 朝鮮と満州(現・中国東北部)の支配権を争って勃発した日露戦争。1905(明治38)年5月27日、日本海軍の連合艦隊は、ロシア・バルチック艦隊を日本海対馬沖で迎え撃った。翌28日にわたって行われた数回の戦闘で、三十数隻のロシア艦隊は壊滅。日本海軍圧勝の「日本海海戦」である。
 この海戦で戦死した多くのロシア兵士の遺体が大越の浜に流れ着いた。通の人々は手厚く埋葬。墓碑を建てた。最初、自然石を置いただけのものだったが、1968(昭和43)年5月、明治維新100年を記念して、長門市通尚寿会(長門市老人クラブ連合会通支部)の手により、現在の御影(みかげ)石の墓に建て替えられている。
 この墓碑の前にプーチン大統領に来てもらう。これは「絵」になる!と安倍さんは考えている(らしい)。
    ×  ×  ×
 しかし、安倍さんの"本当の狙い"は別のところにある。これもまた、安倍さんに代わってその狙いを解説してみよう。
「我が長州(山口県)が日本における唯一の革命『明治維新』をリードして、その後、日本国を支配している!」とプーチン大統領に、そして、世界にアピールしたい。あわよくば、北方領土問題での2島返還の道筋を開く。そのためにも、日露の歴史的和解の場所は、「長州」でなければならない、と安倍さんは考えている(らしい)。
    ×  ×  ×
 でも、ちょっと待ってくれ。
 安倍さんは「明治維新の義は長州、薩摩にあり」「無能な売国奴・江戸幕府」と教えられ、育ったのだろう。
 でも、日本人はすべて「明治維新=絶対善」と思い込んでいるわけでもない。
 僕の実家は東京・柳橋の「深川亭」という料亭。 かの戊辰(ぼしん)戦争では旧幕府軍を率いて蝦夷(えぞ)地を占領、一時は「蝦夷共和国」の総裁となった榎本武揚と縁が深い。箱館戦争で降伏後、明治政府に仕えた榎本は、「深川亭」を拠点に「江戸っ子會」を起こし「江戸の思想」を守る同志を糾合していた。
 そんな家柄だから、明治維新の評価が「薩長史観」とまるで違うのだ。
 江戸時代という文化的に成熟した社会を一気に否定して、武力で政権を己(おの)がものにしたのが明治新政府ではないか。自分たちの価値観のみを強要して、他者への理解を拒み、すべてを武力で解決しようとした。
 その結果が日清・日露から太平洋戦争に続く「泥沼の戦い」に結びついた、と教えられた。
 歴史教科書がいくら「薩長主導の明治維新は日本の夜明け」と言っても、江戸っ子はまるで信じない。
    ×  ×  ×
 天皇陛下は冷静である。「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切」と述べられている。
 畏れ多いことだが、天皇陛下は「勝てば官軍」の人々が、薩長史観を皇国史観と偽って暴走した、と看破されていらっしゃる?
 プーチン大統領は「日露首脳会談の会場は山口県長門市」をどう思っているのだろうか。
 安倍さんが、天皇陛下がいらっしゃる首都・東京ではなく、ロシアにとっては屈辱の日露海戦の舞台・長門市を選んだのに、限りなく違和感を持ったとは思うが、そこは商売人である。安倍さんの顔を立て、その代わり「ロシアに有利な経済協力」を主張するだろう。
 安倍さんの子供じみた戦略。「オラが長州」のために、日本は多大な不利益を被るのではあるまいか?

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