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死んだふり解散、七つの理由 トランプ体制機に安保体制見直しを

2016年12月18日号

倉重篤郎のサンデー時評 103

 永田町を歩く。
 見た目は、解散風は凪(なぎ)となっている。どの陣営もたづなを緩めている感がある。だが、本当か。
 死んだふり解散、という言葉が浮かんできた。1986年の中曽根康弘政権の衆参ダブル選挙前がそうだった。解散権者の腹の内を知っていたのは、政権与党のごく一部の人たちだけで、彼らは意図的に火消しに回り、備えのなかった野党をギャフンと言わせた。
 今回も同じ匂いがする。安倍晋三首相は年明け解散・選挙の選択肢を温存している。あらゆる角度からそれがベターだからである。
 解散を打つタイミングは、(1)今年末(2)17年1月(3)17年秋~年末(4)18年前半の四つしかない。(1)の可能性は薄い。(4)は追い込まれ解散となることから避けたいところだ。
 要は(2)か(3)しかない。ただ、(2)には(3)に勝る点がいくつもある。
 第一に、17年5月には衆院選1票の格差是正のための新区割り案(0増6減)が勧告されるが、それ以前の選挙であれば、自民党は厄介な候補者調整と、同党地盤での6選挙区減の不利を回避できる。
 第二に、自民党の事実上の選挙マシンとなりつつある公明党・創価学会票の十全の協力が見込まれる。同党は17年6月の都議選に全力投入のため、それに支障のない年明け解散がベストという立場だ。18年1月の池田大作名誉会長生誕90周年近くまでずれ込むことも気にしている、とされる。
 第三に、アベノミクスファクターである。量的緩和のメッキがはがれつつある中、後になればなるほど経済環境が悪化する。
 第四に、過去事例である。
 その1は、佐藤栄作政権の1969年12月の沖縄復帰選挙で、自民党は288議席と大勝した。領土も戦後処理も実は票になるのである。プーチンとの北方領土交渉はここにきて両首脳共に意図的にハードルを上げている気配があるが、2島引き渡しを明記した56年日ソ共同宣言の確認と、大枠のロードマップでの合意は可能であり、安倍氏としてもなお大叔父の成功にならいたいところであろう。
 その2は、海部俊樹政権の90年1月解散、2月選挙である。消費税導入後の初の衆院選ではあったが、自民党が275議席としぶとい勝ち方をしている。寒い時期の選挙はなぜか自民党が強いのだ。
 その3は、都議選後同じ年に行われた衆院選で自民党は過去2回政権を失った、というジンクスである。自民党が政権から転落したのは、宮沢喜一政権の1993年7月選挙と、麻生太郎政権の2009年8月選挙の過去2回しかないが、いずれも直前に都議選がありそこで自民が大敗(93年は日本新党、09年は民主党が躍進)、それが国政選挙にも跳ね返っている。17年6月の都議選もまた、今の小池百合子都知事と自民党都議団の対立関係の延長線上にある「小池新党」的な政治勢力が似たような役回りをすることが予想される。
 第五に、野党人気も野党共闘も依然としていま一つパッとしないことである。最終兵器であったはずの蓮舫代表でも民進党支持率は10%未満に張り付いている。500万票を持つ共産党との共闘も明確な方向性を打ち出せずににいる。
 第六に、天皇の退位効果がある。平成30年(18年)1月を平成からポスト平成への御代変わりの区切りとする場合は、その準備も含め、直前にあたる(3)の選択肢は極めて取りにくくなる。
 そして、七番目の理由だが、ここが最も重要なところである。
 多分、安倍氏が(2)をためらう最大の理由は、12年、14年と連続して得た衆院300議席体制を失うことへの恐怖にある。改憲に必要な衆参両院での与党3分の2パワーを手放すことになるし、必ずや選挙敗北の責任を求める声が自民党内から起こるからだ。
 安倍氏が今年の衆参ダブル選挙に踏み切れなかったのは、参院議席は増えても、衆院がどうカウントしても20~30議席減ってしまうリスクを捨てきれなかったからである、と私は思っている。

 ◇トランプ以後、安倍流対米追随を加速するしかないのか?

 ただ、ここにきてその考え方が微妙に変わってきている印象を受ける。要は、次の選挙では自民党は議席減を覚悟する。それは過去2回取りすぎているからである、と。ただし、その目減りを極力最小化する。減り幅が10議席以内なら惜敗、10~20議席なら小敗、20~30議席なら中敗、30議席以上を大敗とし、この大敗ラインを超えない限りは、まだ260以上の議席を有することからこの段階での退陣はありえない、というコンセンサスを作っておくことである。
 それよりも、むしろ、ぜいにくを削ぎ落とした形での引き締まった政局運営ができる。自民の目減りの分は、野党を協力政党にする。維新はすでに与党に寄り添っている。民進党も自民目減りが30議席以内だとすればそれほどの躍進があるわけではなく、蓮舫体制に亀裂が走り、中でも保守・改憲容認グループに遠心力が働く。自民党からすると、身内も減るが、友人も増える、という形である。もし安倍氏が戦略的発想に立つのであれば、むしろ、自民の数が多少減り、改憲を容認する野党の数が増える方が改憲にとっては有利に働く、との計算もできるだろう。
 1月16日解散、2月7日告示、2月19日選挙という解散日程案がある、ちなみに、1月20日は米トランプ新大統領の就任日である。
 さて、トランプ新体制である。解散があろうとなかろうと、この機に一つだけ日本政治としてなすべき課題がある。それは日米安保体制の根源的見直しである。トランプの安保ただ乗り論に我々が何を対置すべきか。安倍流の対米追随を加速する道しかないのか。別の道があるのか。次号からは、何人かの識者とその解を模索する。

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