コラム詳細

青い空白い雲
loading...

トランプ王朝が"学生ローン1兆3000億ドル"を無視すると

2016年12月 4日号

牧太郎の青い空白い雲 597

アメリカ大統領選から約2週間。日本のメディアはもっともらしく「トランプの勝因」を分析してみせているが、どうせ「後講釈」。
 大体、トランプ氏は勝ったのか? それがまず問題だ。トランプ氏は「得票数」ではヒラリーに負けている。トランプ氏の大統領就任に抗議するデモは全米に広がり、『ニューヨーク・タイムズ』のコラムニストが「トランプ暗殺のシナリオ」をほのめかす。混乱はまだまだ続く。
 カネ、女、メール問題に終始した選挙戦。「こんな奴(やつ)らが大統領候補なのかよ!」という嘆きが、「こんな男が大統領になっちゃった」に変わっただけ。ヒラリー氏はもちろん、トランプ氏も負けた。気分的には「勝ったのは75歳のサンダース!」ではないのか?
    ×  ×  ×
 2人とも負けた「証拠」がある。9月の終わり、NBCニュースなどの世論調査。19~34歳の有権者の44%が「クリントンでも、トランプでもない第三党候補に投票したい」と答えたという。たとえばリバタリアン党、緑の党......第三党候補を支持する若者は全米で概(おおむ)ね15%ぐらい存在したらしい。
 理由は簡単である。「若者の怒り」である。1980年代後半から2000年代前半に生まれた、俗にいう「ミレニアル世代」。彼らは「格差・貧困」に喘(あえ)いでいる。早い話が「学生ローン」である。
 4年制大学の学費は2000年代に入って「前年比5%増」が普通になった。学生寮の賃料、食費、ネット代金などを含めると彼らは、4年間で総額10万ドル近い出費を覚悟する。中流家庭の子弟は大学進学を諦めるか、学生ローンに頼るしかない。でも、大卒と高卒の平均年間所得の差は1・8倍もある。仕方なく、中流家庭の子弟は学生ローンを利用する。
 アメリカの学生ローンの関連負債額は1兆3000億ドルを超えた。4000万人以上の若者が利用しているが、その金利はベラボーに高い。連邦政府が"貸し手"となる学生ローンの金利低減措置はいいかげんで、ローン金利は3・4%~6・8%くらいを行ったり来たり。11%が債務不履行とも報じられている。
 景気は回復している!と言われ、住宅ローン、自動車ローン、クレジットカードローンなどの延滞率は大幅に改善されたが、学生ローンの延滞率は上昇を続けている。
 しかも、である。卒業しても 「仕事」がない。
 4年制大学卒業者の不完全雇用の割合は実に約40%。当然、大統領選で「貧しい若者」に対する対策が最大のテーマになるべきだった。でも、2人とも何も言わなかった。だから、クリントン氏も、トランプ氏も「アメリカの未来を託す若者」から拒否された。投票に行かない。
 勝ったのは、民主党の予備選挙で「格差是正」を訴え、若者の圧倒的な支持を得た「75歳のサンダース」。彼だけが「まともな大統領候補」だった、と僕は思う。
    ×  ×  ×
 若者の「怒り」を無視すると、政権はたちまち立ち往生する。
 朴槿恵(パク・クネ)大統領の韓国がいい例である。今回のスキャンダルがこれほど拡大したのは(もちろん、登場人物がドラマチックであることも理由の一つだが)最大の原因は、韓国の若者が格差に苦しめられ、食べられない「現実」にある。
 トランプ大統領は「不動産屋の勘」で、時と場所を選んで嘘(うそ)八百を並べる。カネ至上主義で、当面、人気を集めるかもしれないが......しょせんは「カネに支配され、カネで支配した人生」を送った人物の価値観である。
 トランプ王朝で、若者の所得格差はさらに広がるのではあるまいか? 若者の苛立(いらだ)ちを知らない無知な大統領。家族だけしか信用できない孤独の大統領?
 朝鮮半島が「腐敗政治のお手本」である。北朝鮮は「金王朝」の独裁で、気に入らない人物が次々に公開処刑される。地獄だ。
 南の韓国は度重なるスキャンダルで、大統領が暗殺されたり、投獄されたり、自殺したり......。権力者だって「地獄」に落ちる。
 トランプ王朝に支配されるアメリカを「後講釈」ではなく、スピーディーに観察すると......どこか「朝鮮半島」そっくりでないか?

政治・社会

くらし・健康

国際

スポーツ・芸能

対談

  • 艶もたけなわ

    毎熊克哉 俳優

    2019年5月19日号

    阿木燿子の艶もたけなわ/251   映画「ケンとカズ」で新人賞を相次いで受賞。裏社会...

コラム