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青い空白い雲
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「損税」で病院破綻! 消費税の矛盾が医者を貧乏人にする

2015年11月22日号

牧太郎の青い空白い雲 連載546

 脳卒中の後遺症で麻痺(まひ)した右手のリハビリ。その最中に、理学療法士から「意外なこと」を聞いた。
「僕らも宿直をしていますが、1晩泊まって手当は7000円。看護師は2万円。羨ましいよね」
 笑いながらだから、それほど深刻な話ではないが、医療従事者の賃金には格差がある。仕事内容が違うから何とも言えないが、その20歳代後半の療法士は「看護師の人手不足。需要と供給の原則ですね」と笑った。「看護師が医者より高収入!ということもあり得るな」と冗談を飛ばしたが、このところ医師の待遇も格差が激しい。
    ×  ×  ×
 医者は金持ち!と決まっていた。勤務医の平均年収は厚生労働省調べで1479万円。月収にすると123万円。確かに高給取りだ。
 でも、大学病院の医局に進んだ場合は講師で700万円台、准教授で800万円台、教授で1000万円台......開業医は平均年収1200万~2000万円台だから、ここでも格差が大きい。
 しかも、である。最近、とくに首都圏の私立大学病院の医師の収入がガクンと下がっている。月刊誌『選択』によると、脳卒中や交通事故など救急患者を治療する、東京・文京区のN医科大学付属病院などは経営がことのほか厳しく、経営が比較的安定しているJ大学付属病院でさえ、40歳代の外科医で月収40万円以下、というケースさえある。なぜ、こんなことが起こっているのか?
 実は、本誌前号のスクープ記事「名門『亀田総合病院』で何が起きたのか!」と無関係ではない。この記事は「首相の主治医」でもあった亀田総合病院の小松秀樹副院長が、厚労省と県行政を批判したら補助金打ち切りを通告され、突然の解雇通知。その内幕をリポートしたものだが、この記事で「現場からの医療改革」を目指す内科医・上(かみ)昌広さん(東京大学特任教授)は「すべてが消費税にある!」と解説している。
 なぜだろう?
    ×  ×  ×
 公的医療保険による医療費は「医療に消費の概念はなじまない」との主張が通り、1989年の消費税導入当初から「非課税」である。保険診療に関する収入は消費税率と関係なく、政府が決める診療報酬に基づいた金額になる。
 その一方で、医療機関は消費税分が上乗せされた医療機器や医薬品、医療材料などを購入する。仮に2億円分の"仕入れ"があるならば、8%分の1600万円の消費税を仕入れ業者に支払うことになる。患者に代わって消費税を払っているのだ。医療関係者は、これを「損税」と呼ぶ。
 実際、全国の医療機関が負担している消費税はいくらか? 日本医師会の試算では、医療機関の保険診療収入の3・5%相当額、1兆4000億円を超える。これが「病院の貧乏」の原因なのだ。
 前述の日本最古の私立医大で、まもなく開学140年を迎えるN医科大学も、日本最大級の規模を誇る私立病院・亀田総合病院も消費税で「貧乏」になっているのだ。
    ×  ×  ×
 消費税の軽減税率を巡ってさまざまな議論が行われている。食料品などの生活必需品には、その他の商品より低い税率を適用して消費者の負担を軽くする。
 結構なことだが、医療費は非課税というのは無理がある。現実にこのまま「病院の貧乏」を放置すれば、日本人はまともな医療が受けられない。
 消費税はすべてのサービス、一律税率にすべき!と思っている。生活必需品も、医療費も新聞も「一律同率」が良い。
 実は、新聞に軽減税率が必要と思っている。先進諸国では、食料品などと同じように活字媒体への税負担を減免する制度がある。活字文化は単なる消費財ではなく「思索のための食料」という考え方だ。
 しかし、である。それを言い出したら、キリがない。新聞社に長いこと勤務して、今でも『サンデー毎日』で書かせてもらっているのに「新聞も同じ税率にしろ!」と言うのは辛(つら)い。でも、活字媒体を特別扱いすればアレもコレも、である。
 消費税の「矛盾」を解決するには「税の公平」を徹底するしかない。世の中には「新聞社は軽減税率実現のため、安倍政権におべっかを使っている!」という見方もある(これは邪推だと思うが)。新聞、雑誌は「軽減税率」を勝ち取るために、今まで築いた「信頼」をなくしてよいのか? もし、この連載が突然、休載になったら「軽減税率に反対したから」と思ってくれ。 
 冗談ですよ(笑)。
(大事なことなので「青空スポット」はお休み)

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