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青い空白い雲
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教授の啖呵は「雑音」? それとも「民主主義」?

2015年9月27日号

牧太郎の青い空白い雲 連載539

「金沢亭」といえば、太平洋戦争末期まで大阪市ミナミ法善寺南側にあった寄席が有名だが、東京・銀座にもあった。
 寺田寅彦の「銀座アルプス」に「暑いころの昼席だと聴衆はほんの四、五人ぐらいのこともあった。手ぬぐい浴衣(ゆかた)に三尺帯の遊び人が肱枕(ひじまくら)で寝そべって、小さな桶形(おけがた)の容器の中から鮓(すし)をつまんでいた」とある。明治30年代、銀座の「金沢亭」は小さな寄席だった(『銀座 歴史散歩地図 明治・大正・昭和』赤岩州五編著 草思社刊に詳しい)。
 昼席はガラガラでも、夜はいっぱい。三遊亭圓朝が出ると300の席が詰めに詰めて500、600になる。そうなると「金沢亭」の隣の銭湯が午後8時ごろに突然、閉まってしまう。「金沢亭」が銭湯を買い切るのだ。銭湯の客は大きな声で唄(うた)う。政治談議を始める。湯の中だから反響する。寄席の噺(はなし)の邪魔になる。
「雑音」をなくすために、「金沢亭」は銭湯を買い切った。それでも儲(もう)かったというから、三遊亭圓朝の人気は大変なものだった。
    ×  ×  ×
 失礼ではあるが、「カネをかけても雑音を消したい!」と安倍首相は思っているだろう。
 見事、無競争で再選を果たしたのに......一部のメディアには「野田聖子議員の推薦人になったら◯◯だぞ!」と脅していた、と書かれる。実は当方もブログ「牧太郎の二代目・日本魁新聞社」で「女性を輝かせる!なんて言っていたのに」とつぶやいてしまった。
 安倍さんは本当は女性が嫌い! なのかもしれない。女性が怖いのかもしれない。
 辻元清美さん(民主党)に「早く質問しろよ」、蓮舫さん(同)には「そんなこと、どうでもいいじゃないか」とつぶやいたり......安倍さんが口汚く罵るのは、なぜか女性ばかりだ。彼女たちは、安倍さんにしてみれば、「消したい雑音」の類いなのだろう。 
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 女性週刊誌も「雑音」がお得意。『女性セブン』は、安倍夫人が酔っ払って某有名ミュージシャンとイチャつき、首筋にキッスしたと報じた。不倫キッス?  安倍さんにとっては「消したい雑音」の一つだろう。他のメディアに「追いかけ記事」が出ないので、もしかしたら「消した」のかもしれない。
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 でも、安倍さんにとっては最大最悪の「雑音」はデモだろう。9月6日からの週も、台風の長雨の中でも各地で「安保法案を廃案にしろ!」というデモが続いた。
 安倍さんは、8月30日の国会周辺を埋(うず)め尽くした大規模集会を見て見ないフリをした。もともと、安倍さんは「デモは一部市民の非正規行動にすぎない」と思っている。だから「雑音」、黙殺する。しかし「人間じゃない!」と言われれば、堪忍袋の緒が切れる。
 こんなことが起こった。某大学の某教授が集会で「時代劇の萬屋錦之介が悪者を退治するときに『てめえら、人間じゃない。たたき斬ってやる』と叫んだ。私も同じ気持ち。暴力は使うわけではないが、安倍に言いたい。『お前は人間じゃない! たたき斬ってやる』」と演説した。
 その模様を映したビデオ類があるのだろう。自民党が「人間じゃない!」はヘイトスピーチ(憎悪表現)じゃないか?と言い出した。「雑音」で済ますわけにはいかない! 確かに、言い分は分かる。ネットでは、ちょっとした騒ぎになっているらしい。
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 しかし今回の大規模集会は、これまでの民主主義を変える「革命的な出来事」だった。その理由の一つは、これまでの動員型ではなく、自然発生型であったこと。しかもデモが「政治の嘘(うそ)」を見破って、議論の本質を捉えていること。集団的自衛権か?個別的自衛権か?という議論ではなく、戦争か平和かの選択になったことだ。国民の生命に関する一大事に関してのことである。「選挙で勝ったから、全部任せてもらった」なんて誰も言えない。
 選挙で一定の判断を下した国民は、次なる選挙までの間、時の権力に「過ち」がないように監視する。「過ち」を知れば、時の政権に「NO!」と言う責任がある。
 まさに今回は、国民が責任を取る時。今回の国民的デモが、議会と並ぶ民主主義になったことを日本人に教えた。某大学の教授は萬屋錦之介ほど上手とも思えないが、やむにやまれず、啖呵(たんか)を切った。これは「雑音」というより「民主主義」そのものではないか、と当方は思う。
 9月13日からの週は、新しい民主主義の正念場である。

 ※(「青空スポット」は日本が大事なときなので休載します)

 ◇毎日新聞夕刊にコラム「大きな声では言えないが...」を連載中

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