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サンデー時評
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野田さん、よく頑張った 経済論争で挑戦続けよ

2015年9月27日号

倉重篤郎のサンデー時評 連載69

 村上誠一郎氏に野田聖子氏から電話があったのは自民総裁選公示日の朝8時前だった、という。
「あと一歩でした」と言う野田氏に対し、「残念だったね。しかし、自由闊達(かつたつ)な議論が自民党の取(と)り柄(え)なんだからそれなりに意味があったのではないか」と慰めた。
 野田氏が推薦人20人を集められるかどうかで注目されたこの選挙。同党内で唯一安保法制反対を明言する村上氏は、野田氏に対し「足りなかったら使ってよ」とあらかじめ自らの署名を渡していた。
 結局、推薦人名簿は何人に達したのか。野田氏によると「奇跡的な数」という。村上氏には19人まで行きましたと聞こえた。いずれにせよ、党執行部、首相官邸が総力を挙げてつぶしにかかる中で、よくぞ戦った、というべきだろう。
 村上氏は言う。「選挙結果で(安倍晋三首相の優勢が)引っくり返るわけでもないのに、党員票で批判が出るのを恐れた。総裁選での投票権を売りに党費を徴収しているのだから、詐欺のようなものではないか。自民党が滝つぼ目がけて集団自殺しようとしている」
 それにしても、安倍氏はなぜそこまで無投票にこだわったのか。野田氏と一緒に選挙カーに乗りたくなかったとか、野党の審議拒否を回避するため、との解説があるが、その本質は村上氏が言うように、党員の安倍批判票を恐れたことにある。恐れた、というよりおびえた、という方が正確だろう。
 というのはこういうことだ。もし総裁選が行われたら、野田氏が賛成であろうとなかろうと、安保法制が総裁選の最大の争点になったであろう。少なくともメディアはそう仕立てる。『毎日新聞』の世論調査では、自民支持層の中にも安保法制をこの国会で急ぐべきではない、との声は3割ある。採決強行の構えはその数字を跳ね上げるであろう。永田町の国会議員はポストで干されるのを恐れるが、一般の党員にはその手のマインドコントロールはきかないからだ。
 その89万党員票の民意は、二度にわたり政権を脅かす。最初は、採決前の各社世論調査で、二度目は投票日である20日の党員投票結果の開示によって。もともと地方党員票は、安倍氏にとっては触れられたくない弱点の一つである。2012年の前回総裁選でもライバル石破茂氏の半分強しか取れなかった。安倍陣営は完勝を装うが、実は相当に危機的状況に追い込まれての攻防であったと思われる。

 ◇例のない少子高齢化 核心に向き合わないアベノミクスの虚構

 野田氏にも注文がある。ここまで戦った以上は、反主流派になる覚悟を固めて党内議論活性化の旗手となってほしい。
 安倍政権が「三本の矢」を売りにアベノミクスなる経済政策を展開して2年半が経過した。安倍氏は総裁2期目もそれを一層強化・発展させると言明している。この節目にきちんと検証し、これからもその延長線上で行くのか、修正するのか、を議論してほしい。
 なぜならば、アベノミクスの限界が出始めているからだ。確かに、円安と株高により上場企業、特に輸出産業は潤い、そういう人々の間では景況感が好転している。
 だが、GDPはどうか。四半期(3カ月)ごとの数字に意外とマイナスが多いのに気付く。10期のうち4期がマイナス成長であり、それをグラフにすると先進各国の中ではむしろ低い方だ。異次元緩和政策で2年で2%の物価上昇にしますと胸を張っていたのも今はどこにいったやらである。
 いかに日銀がカネをばらまこうと、消費や設備投資、住宅建設といった実需拡大に結びついてこないのはこの2年半で明らかになったのではないか。そもそも円安は輸出企業を潤すが、消費者は輸入価格の上昇で可処分所得を減らす、という二律背反の政策である。
 むしろ、いくつかのマイナス効果が顕著になった。日銀が年間80兆円の国債を購入するという文字通り異次元の財政ファイナンスは、財政規律を大甘にし、その膨大な保有国債(すでに300兆円、GDPの6割)を処理する際の出口政策をますます狭くしている。
 政治の役割は、外交・安全保障もしかるべきことながら、経世済民、つまり「世を經(おさ)め、民を濟(すく)う」ことにもある。特に、戦後日本が軽武装、経済重視路線でここまでの福祉経済大国を築いてきたことを振り返ると、経済政策こそが政権政党にふさわしいかどうか、要の政策になる。
 バブル崩壊後の日本経済の不振には、世界で例を見ない少子高齢化の進展という構造的な問題がある。このことが労働人口の減少、高齢者向け財政の肥大化といった成長のバリアーを作り上げている。アベノミクスはこの経済政策の核心に向き合えていない。野田氏には少子高齢化を見据えた政策勉強の蓄積がある。一過性の政策でしかないアベノミクスに代わる道を見いだす好機である、と思う。
 そうだ。かつて自民党にも経済政策通がいた。与謝野馨氏の門戸を叩(たた)いてみた。
「2%の物価目標は達成できない。設備投資は起きていない。賃金はわずかに上がっても将来の社会保障への不安から消費がめざましく増えることはない。財政規律が政治家の間で緩んでいる。3%成長は不可能で2020年に財政健全化するという目標はウソである。出口政策は、今から考えておかないととんでもないことが起きる。ハイパーインフレの可能性がある。第一次世界大戦後の英国やブラジル、アルゼンチンの例を学ぶべきだ。『アベノミクス』などということ自体おこがましい」
 与謝野氏は喉頭がん手術で声帯を失い、今回は「アベノミクスの中間総括」として筆談取材に応じてくれた。自由闊達な論争の場であるはずの自民党内でなぜこういう問題提起が出てこないのか。

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