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サンデー時評
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総裁選、なぜ逆張りしない? 安倍さん、20人貸して頂戴

2015年9月13日号

倉重篤郎のサンデー時評 連載67

 永田町を歩く。
 国会周辺には異様に警察官の数が多い。週末デモに備えてのことのようだ。デモといえば、安保法制反対の層は団塊世代から女性、若者まで確実に広がっている気がする。我が周辺でも、例えば早朝テニスのある仲間は大学時代のネットワークで呼び掛け、80歳の老師ともども7人で参加した。「私も何かしなくては......」との声も聞こえる。法曹界、学者からの反対声明も途切れない。地方でもきめ細かくデモが行われている。
 確かに、60年安保のような革命前夜的な熱狂はない。ただ、あの時は党派による組織的な動員があった。今もそれはあるが、むしろ自発的で奥深い広がりとなっている。暴力的に政権を引っくり返すパワーではないが、投票行動でしっぺ返しする力は持っている。
 国会内に入る。
 本当に会期中なのか、と思われる静けさである。衆院議員は、ほとんど夏休み状態であり、参院議員も安保法制を審議する特別委員会は動いているものの、来年改選期を迎える人達は地元に張り付いている。果たして、国会周辺を渦巻く民意は選良たちにきちんと反映されつつあるのだろうか。
 議員、秘書、党職員らと話す。
 二つを話題にした。第一に、安保法制はどう決着するか。第二に、自民党総裁選はどうなるのか。
 安保法制は以下の見通しだった。金丸信(元自民党副総裁)氏のような世論に敏感な実力者がいれば、彼が時の氏神となって与野党協議・大幅修正となっただろうが、その手の人物は払底した。ゆえに与野党共になすことなくレールの上を突っ走る(強行採決)しかない。その際に多少の修正、付帯決議的なものはあるかもしれない。
 公明党の支持母体である創価学会内で法制反対の動きが出ていることについてはどうか。これについては、裏も表も知り尽くす人物がこう語った。「権力の蜜、大臣ポストは一回味わうとやめられない」。今後さらに学会内で批判が高まったとしても公明党はレールからはずれることはできない。蜜の味だけでなく、執行部の責任問題にまで発展するからである。

 ◇恐るべき翼賛体質...3年冷や飯でも、という気骨ある者はないのか

 総裁選については、安倍晋三陣営の戦略勝ちだという。昨年秋の人事で谷垣禎一氏を幹事長に、石破茂氏を閣内に取り込んだ。うるさ型の二階俊博氏も三役(総務会長)に引き立てた。どちらかというと安倍氏と対照的なリベラルな気風を持つ岸田(文雄外相)派に閣僚ポストを多数渡し、政権に批判的な山崎拓氏が実質オーナーの石原(伸晃元幹事長)派を徹底的に締め上げた。それに加え過去3度の国政選挙で圧勝という実績、衆院では何と2期以下の122人が安倍チルドレンである。
 これではとてもアンチ安倍勢力は育ちそうもない。「誰も彼も干されることを恐れている」との解説に説得力があった。安倍氏再選が確実になった以上は下手に逆らって人事で干されたらたまらない、という。確かに、総裁任期を3年延長し年1回ペースで人事をすると、そのポスト付与権は延べで閣僚54、副大臣・政務官180、衆参両院委員会委員長150に達する。
 実際問題として、二階氏が安倍再選支持の口火を切ると、遅れてはならじとばかりに各有力者、派閥が同調した。今ごろは安倍一色に染まっていることであろう。
 孤軍奮闘しているのが野田聖子氏だという。野田氏にはこのコラムにも登場していただいた。少子高齢化こそ日本政治の抱える最大の課題だとして調査、提言をしてきた。安保法制に対しても少子化の観点から疑問を投げかけている。何よりも論争がない自民党の無投票再選構造に警鐘を鳴らしている。その志や良し、である。その度量、見識、女性であることも含め十分総裁候補としての資格はある。
 だが、人が集まらない。総裁選を戦うためには党所属国会議員20人の推薦が必要だが、その数になかなか満たない、というのである。負け戦も3年間干されるのも嫌だ、というのだ。かつて野田氏と政治行動を共にしていた人たちに聞いても今回は名前を貸すわけにはいかない、という構えであった。
 これを恐るべき翼賛体質といわずして何というか。3年冷や飯食っても論争のある政権党にという気骨のある者はいないのか。
 政権政党には重要な役割がある。国民の生命、財産を守る義務を負う権力集団として、国家の舵(かじ)取りに誤りないよう慎重の上に慎重を期すこと、民意の動向に常に気を配ることである。保守の真価は自らが間違うかもしれない、という謙虚さにある、ともいわれる。
 その伝でいえば、今の安倍自民党は政権与党として真っ当とはいえない。国政選挙がないのであれば、まさに総裁選という場を活用して民意を吹き込み、反論を消化していくべきである。それを経て初めて国を統べる権力としてその正統性が担保されるのである。
 ましてや、と言いたい。安倍政治全般が行き詰まりをみせているにもかかわらず、である。それは前回(8月30日号)述べた通りである。唯一例外扱いしたアベノミクス経済政策も、世界同時株安という新局面で練り直しを迫られている。
 相場用語で逆張り、という言葉がある。世のトレンドと逆目を張ればリスクもあるが、いざという時のリターンも大きい。野田さんだけではない。自民党議員にとって、今ほどその好機はない。安倍政権が倒れた時は、いち早くアンチテーゼを立てた者が尊重される。
 安倍陣営にも言いたい。圧勝に自信があるのであれば、推薦人20人に足りない分は陣営が貸してあげたらどうか。無投票回避のためにかつては行われたことである。
 干すか、干されるか、で動く恐怖・翼賛政治は権力を脆(もろ)くする。
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 ■人物略歴
 ◇倉重篤郎(くらしげ・あつろう)
 1953年7月東京生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局。政治部、経済部。2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員

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