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テレビ探偵
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又吉じゃない方の芥川賞作家のこと

2015年8月30日号

泉麻人のテレビ探偵 連載69

 芥川賞の一件以来、番組表に「又吉(直樹)」の名を一段と見掛けるようになった。ちょこっと脇で出るような番組でも、旬の又吉のキーワードを見出しに謳(うた)いたい、といったところだろう。そして共演者、とくにお笑いの同業者は、やはりなんとなく又吉の扱いに困惑しているようなところが見受けられる。
 とりわけ、キャラがボケだったからねぇ。それもタケシのようなリード役を兼ねたボケではなく、天然の変人タイプだったから、相方の綾部クンは本当にやりにくいだろう。又吉クン自身も、芸人としては"さんざん期待させておいてコケた"くらいのセンがおいしかった......と思っているに違いない。今後彼は、芥川のインテリイメージを払拭(ふつしよく)すべく、アホバカっぽい仕事(たとえば出川系肉体リポート)に積極的に乗り出すかもしれない。
 番組表に又吉の名が増えたと書いたけれど、そのなかにはこんなのもある。「又吉じゃない方の芥川賞作家、登場!」みたいなやつ。ま、随分失礼な言い方だとは思ったが、当の羽田圭介という青年作家は、けっこうその謳い文句を肯定的に受け止めているようだ。
「又吉さんの隣で肩だけ写ってた作家、ってことで興味をもってもらえればいい」なんてことをバラエティー番組で語っていた。
 僕が観たのは「アウト×デラックス」と「ダウンタウンなう」だったが、どちらかというと前者の方が彼の本性、チャーミングポイントなどをうまく引き出していた。その辺、キワモノ馴(な)れした番組ということもあるのだろう。
 29歳の彼、又吉より五つか六つ下ということになるのだろうが、17歳で文藝賞を受賞して以降、何度も芥川賞の候補に入ってきた、いわば文学界の清宮幸太郎的逸材なのだ。
 受賞報告を待つ際のデーモン小暮メイク―が話題にされてきたが、通常の佇(たたず)まいからしてそれなりのインパクトがある。文楽人形のような色白のハッキリクッキリした顔立ち(やや市村正親っぽくもある)、身長180センチ超の大男でガタイもしっかりしている。受賞作『スクラップ・アンド・ビルド』の主人公は日々筋力トレーニングに励んでいるが、トークを聞いていると、実際本人も創作活動の気分転換の目的で肉体を鍛えているらしい。なんでも筋肉に良質のタンパク質を供給するために、自ら鶏肉4キロを使って大量の鶏(トリ)ハムを作るのだという。マツコとの会話のなかで何度も発せられた"鶏ハム"という妙なフレーズはある意味文学的でもあった。
 体を鍛えているとはいえ、スポーツに興味があるわけではない。自分でやらないスポーツを観戦しても意味がない、と語る。恋愛の話題になったとき、「結婚してる女友達と会っても、意味ねーなーって思う」と、いらだつように語っていたのがおかしかった。合理主義というか、ある種のナルシストというか。話すうちにトーンが変わる語り口はオタクっぽいが、時折見せるシャイな表情は好感がもてる。
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 ■人物略歴
 ◇いずみ・あさと
 1956年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、テレビ雑誌編集者を経て、フリーのコラムニストに。東京を中心にした街歩き、現代風俗などを中心に執筆。近著は『還暦シェアハウス』

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