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「脳」で読み解く「自粛警察」のゆがんだ正義感

2020年5月31日号

「自粛してください。次発見すれば、警察を呼びます」などと書いた紙をライブバーの店先に張ったり、SNSで〝3密行為〟を批判する動きが目立つようになった。いわゆる「自粛警察」だが、どのような心理が働いているのだろうか。第一線の心療内科医に聞いた。

 一人一人が感じる「正義感」と、社会のルールとしての「正義」は別であることに注意する必要があります。

 こう語るのは、心療内科のベテラン医師、梅谷薫氏だ。コロナ禍以前から、〝ゆがんだ正義感〟について警鐘を鳴らしてきた。梅谷氏は、「自粛警察」の心理を知るためには、まず脳の仕組みを理解する必要があると語る。

 私たち人間の脳の機能は、3層構造になっています。第1層は「脳幹」で、生命の中枢となっており、第2層が扁桃体(へんとうたい)などを含む「大脳辺縁(へんえん)系」です。ここは感情の中枢を担っています。一番外側の第3層が「大脳新皮質(しんひしつ)」で、理性の中枢です。

 私たちは幼少期に、「自分が正しい」という「正義の感覚」を育てます。これは自分を守るシステムであり、生きる上での確信となる感情であるといわれています。

 しかし、それぞれが自分の「正義感」を主張するだけでは、社会生活が成り立ちません。人を傷つけたり、だましたりしてはいけないという「社会のルール」、つまり「正義」を、しつけや教育を通して学ぶのです。この学びの脳は、第3層の大脳新皮質となります。

 平和な時代であれば、個々の「正義感」は、法律をはじめとした「社会正義」とほぼ一致するように脳内で調整され、維持されています(図1)。

 しかし、今回のコロナ禍のように強い社会不安が広がる状況では、この「社会正義」と「正義感」が対立する場面が出てきます。

 目に見えないウイルスに感染してしまうのではないか、自分や家族の生命が脅かされるのではないか。こうした強い「不安」と「恐怖」が私たちを襲います。

 同時に、半ば強制された自粛生活によって生じる「不安」「不満」「怒り」といった感情が募ってきます。

 このような感情はこれまでは飲み屋やカラオケに行く、スポーツをするなどの「行動」によって、発散されてきました。

 しかし今は自粛生活のため、行動で発散させることができません。行き場を失った感情のエネルギーが、「悪を正すことで、自分の不安を解消する」という〝感情のはけ口〟に向かう事態を起こしやすくするのです(図2)。

 これが、「自粛警察」などの行動を引き起こすメカニズムだといえるのです。

 ◇コロナ後も〝ゆがみ〟は消えない

 一つ一つは「正しい行動」でも、行き過ぎると〝ゆがんだ正義感〟と呼ばれることがあります。

 コロナ禍という未曽有の事態の中で、私たちは必死に毎日の生活を送っています。こうした私たちの生活に反して、〝3密〟になる恐れのある行為を目にすることがあります。一見、「正しくない行為」の裏には、それぞれの事情もあるでしょう。しかし、「自分は正しい!」という感情に突き動かされている時は、冷静な判断ができません。「社会正義」で許容されている範囲を超えて突っ走ってしまい、〝ゆがんだ正義感〟と呼ばれる行為になるのです。

 5月14日、政府は39県について緊急事態宣言の解除を決定した。残り8都道府県については、解除の可否が21日に改めて判断されるという。今後、〝ゆがんだ正義感〟はなくなっていくのだろうか。

 その可能性は低いと思います。なぜなら、コロナ以前からも〝ゆがんだ正義感〟の事例は多かったからです。

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