書籍紹介

書影:維新の商人  語り出す白石正一郎日記
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維新の商人 語り出す白石正一郎日記

著者古川 薫

  • 発売日2017年11月23日
  • 配信日2017年12月22日

ISBN:978-4-620-32480-7
定価:本体1,800円(税別)
判型:四六判
頁数:256頁
ジャンル:社会・政治・歴史

<明治維新150年秘録>
2018年5月、92歳で世を去った直木賞作家の、最後の著作

安政4年(1857)11月12日夜。西郷吉之助(隆盛)が下関の豪商・白石正一郎邸のトビラを叩いたときから、幕末史は旋回した。百を超える志士たちと交流し、私財を擲ちそのパトロン的存在となって、みずからも奇兵隊の隊士として戦場に立った白石正一郎。一枚の肖像すら残さず、激動の日々をつづった日記だけを遺して歴史の中に消えた「維新の商人(あきびと)」の正体とは? 半生の冒険がつづられた『日記中摘要』に広がる背景世界と、往来する人々の息づかいを珠玉の筆致で描いた、圧巻の維新群像! 


「作家の禁欲的な文体によって清冽な人間像が浮かび出る」
池内紀・評

 古川薫の直木賞受賞作『漂泊者のアリア』は、日本オペラ界の草分け、藤原義江を描いていた。下関のイギリス人商社マンと、色街で知られた芸者のあいだに生まれた。青い目と白い肌の少年が、どんなに過酷な少年期を送ったか。そのなかで天性の声と無邪気さを足場に、しだいに自分の世界を見つけていく。乏しい資料を縫って想像を抑えながら語っていった。
 作家古川薫自身、さんざっぱら冷や飯を食ってきた。直木賞候補になること十度。それでもくじけず、生まれ故郷の下関に住みつづけ、ねばり強く書いてきた。
 どうしてこの町を捨てられようか。日本近代化の結節点のような土地なのだ。幕末という大いなる転形期にあって、下関はつねに歴史転換の舞台になった。帝国ニッポンが列強の一つに躍り出た日清戦争は、この海峡の町の高台で決着をみた。
 九十二歳の作家の新作が初々しい時代の断面をのぞかせてくれる。下関の廻船問屋小倉屋の主人白石正一郎、ここではその人の残した日記が主人公である。日々つづられた私的メモではなく、のちに当人が『日記中摘要』としてまとめたもの。それとなく公を意識したダイジェスト版であって、言わず語らずのうちに色濃く筆者のメッセージがこめられている。
「高杉晋作という二十四歳の青年があらわれてから、正一郎の新しい人生は始まった--」
 有能な商人がパトロンとして肩入れするなかで、みずからも一人の「革命家」に変貌していく。幕末というエポックのフシギさ、おもしろさにちがいない。時代小説の大半が幕末に惹(ひ)き寄せられる所以(ゆえん)である。それは一つの国をみまった痙攣(けいれん)じみていて、いたるところで「勤皇の志士」がとび出した、旧時代の自浄の過程とも言えるし、生みをもたらす発熱現象でもあった。またあるいは無方向に発散した活力の表現だった。
 下関の豪商は、とりわけ転形期に必要とされるすべての条件をそなえていた。勇気、教養、判断力、情報力、個性的魅力、歌ごころ、さらにおおかたの志士が欠いていた財力までも。ただ一つ、若さがなかった。それがすべてを消却して、ひそかな記録者の役まわりにとどめた。
 それは作者古川薫の立場でもあった。ほんの数行、ときには一行に凝縮された事をめぐり、作家なら想像のままにふくらませ、見てきたように場面を描写して、セリフをまじえていく。それを厳しく自らに禁じた。それでもつい小景をまじえて、「小説ならこのような場面展開になるところだ」と、くやしそうに漏らすあたりがほほえましい。
 むろん、禁欲の文体がよかった。おかげで白石正一郎が実際にそうであっただろう清冽(せいれつ)な人間像が浮かび出る。奇兵隊の結成、身分にかかわりのない軍事力、下関砲撃事件、長州藩挙兵......肺を病んだ二十代の青年晋作に寄りそいながら、じっと見守っている人物がいた。幕末維新の出世主義者を冷やかに黙殺するようにして、自分の演じた役柄は慎重に消していった。新しい世の中で「用ズミ」とされるのは承知の上のこと。歌ごころのあった商人の歌集に、ひっそりと収められている恋歌でしめくくっているのが、いかにも小説家らしいのだ。
SUNDAY LIBRARY 2018年1月16日

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